コスタリカ経済 定期報告(2012年8月)
※ 出典:中銀発表月次資料(7月又は8月分までの経済数値、財政収支は6月末時点まで)
1 経済活動指標
- 8月の経済活動指標は、5.34%と前月よりさらに数値を下げ、昨年12月の水準にまで低下した。この大きな要因は、フリーゾーンを中心とした製造業の成長率の低下である。
- 2011年9月の携帯電話事業の民営化及び米国景気の回復を主たる要因とする2011年以降の貿易の伸びに伴い成長率が上昇傾向にあった運輸・倉庫・通信業において、7月以降成長率の低下が見られる。これは景気回復による一時的な成長率の増が一段落したことが主要因と考えられる。
- 企業向けサービス、金融仲介サービス、商業等をはじめとしたサービス業は引き続き安定的に推移している。また、前年8月にはマイナス成長となった建設業も本年は3.10%増となるなど、回復基調にある。

2 貿易
- 8月までの累積貿易額は輸入が11,600百万ドル(前年同期比9.2%増)、輸出が7,661百万ドル(同比10.8%増)で、貿易赤字は3,939百万ドルとなった。
- 輸入においては、7月に前年比でマイナスとなったが、これは石油価格が前年の7月より低下したことにより石油輸入高が減少したことによる。また、製造業の回復基調がひと段落しつつあることによる原材料輸入の伸び率低下も一因である。
- 輸出については、フリーゾーンを中心とした製造業の伸びがひと段落したことに加え、バナナ、砂糖等の伝統的農業分野で伸びが小さかったことが主たる原因となって、7,8月の対前年伸び率はそれぞれ1.7%、2.1%と低水準に留まった。




※特別レジーム:フリーゾーン及び特別ドローバック制度
3 財政状況
- 6月までの財政収支は、歳入が前年比11.7%増(前年9.5%)、歳出が10.2%増(前年12.2%)、中央政府の財政赤字対GDP比率は▲2.1%となった。
- 歳出は、人件費(前年比9.4%増、2011年の同比率は12.9%)や一般支出(前年比1.2%増、2011年の同比率は14.9%)が抑制された一方で、経常移転は再び増加に転じた。
- 公的債務は増加し、6月末時点での債務残高は20,420百万ドル(対GDP比率45.2%)に達した。債務内訳には大きな変化は見られず、国内債務が78%、対外債務が23%となった。


4 物価上昇率
- 物価上昇率は引き続き安定的に推移している。7月にはバス運賃の値下げ及びガソリン価格の低下が大きな要因となって物価指数は0.3ポイント低下し、年間換算率では3.95%と、中銀の目標範囲である4~6%の範囲を下回った。


5 為替・金利
(1) 為替レート
- 前月に引き続き為替バンド下限の1ドル500コロン付近で推移し、中銀は7月に計33百万ドル、8月に計56百万ドルのドル買い介入を実施した。

(2) 金利
- 基本預金金利 は引き続き10.00%~10.50%の高水準で推移している。8月22日にユーロ債法案が可決されたことにより金利低下が期待されているが、専門家の間では、年末までは現状の水準が続くとの見方が多い。


6 外貨準備高
- 7月末時点での外貨準備高は、中銀によるドル買い介入等が要因となって前月比で42.4百万ドル多い4,911.9百万ドルとなった。これは、輸入額の約4.4倍に相当し、概ね適正水準といえる。

7 主な出来事 【8月】
(1)国内経済
ア 財政関連
- ユーロ債、農業輸出部門を中心にドル安懸念の声(8/2)
7月31日のユーロ債法案の1次審議通過を受け、農業輸出部門、観光部門及び輸出部門全般は、これによる更なるドル安を懸念し、反対の姿勢を示している。 - ナショナル大学試算、ユーロ債発行による金利低下は次年以降に(8/4)
ナショナル大学のエコノミスト、フェルナンド・ロドリゲス氏は、ユーロ債発行による金利低下への影響は基本預金金利(TBP)で0.5%程度(8月時点のTBPは10.50%)に留まるとし、期待されているほどの効果は出ないと発表。 - 7月末時点の財政状況、徴税率上昇・支出抑制にも関わらず赤字幅減少せず(8/15)
財務省発表によると、7月迄の財政状況は歳入が前年同期比1.9ポイント増の11.3%増、歳出が同比0.8ポイント減の9.6%増となったが、財政赤字の対GDP比はほぼ前年並みの▲2.5%(▲前年同期2.6%)となった。アジャレス財務相は、本状況下での更なる金利上昇圧力に対処するには、ユーロ債法案と徴税強化に関する法案の早期承認が必要と強調。 - ユーロ債法案、国会2次審議を通過(8/23)
国会は今後10年間で40億ドルの外国起債を裁可する法案を41の賛成票で可決。財務省は年内の発行に向け準備を始める。これにより、下半期に調達が必要であった16億ドルの国内調達は40~50%減額できる見込み。現在、債務はGDPの32%に達するが、対外債務は4.8%と低水準にある。 - 財政に関する2法案(財政透明化に関する法案、徴税強化に関する法案)が国会で承認(8/27)
27日、財政立て直し策の一環である2法案、国会の第2次審議にて全会一致(42議員が出席)で承認。財政透明化に関する法案は、OECDの財政透明基準を満たすためのもので、徴税に関し違法の疑いがある場合の税務局による銀行機密へのアクセスの際の手続きが簡素化され、脱税防止につながる見込み。
(2) 対外経済
ア 対外直接投資
- ライフサイエンス分野でFDIが拡大傾向(8/6)
医療機器等のライフサイエンス分野での新規投資が拡大傾向にあり、現在41企業が13,500の雇用を創出している。2012年にはCovidien社(アイルランド・米国)が工場建設に5千万ドルの投資を発表するなど4件の新規投資が発表されている。また、既に進出している企業が新たな投資を行うケースもあり、これにはテルモ社の子会社であるマイクロベンション(MicroVention)社が含まれる。 - コロンビア、4番目の直接投資国に(8/13)
2000年には百万ドルにすぎなかったコロンビアからコスタリカへの直接投資が2011年には1億47百万ドルまで増加。米国、スペイン、メキシコに次いで4番目の投資国となった。コロンビアからの投資は、農業(パイナップル、バナナ)、工業(建築資材、塗料等)、金融サービス(銀行、保健)が主であるほか、国内企業の買収が多いのも特徴。 - アマゾン社(米国)がカスタマー・センター新設、300人を雇用(8/31)
アマゾン社が2013年に25百万ドルの投資でカスタマー・センターの拡大を行うと発表。300人を新規雇用。同社は2008年にコスタリカにカスタマー・センターを設立、現在約1,000名を雇用。米国とスペインの顧客を中心に対応しているほか、キンドル・ユーザーや西語版同社サイトに関するサービスも実施している。
イ FTA・経済協定等
- メキシコとのFTA近代化を国会外交・通商委員会が承認、国会審議へ(8/9)
昨年11月22日にエルサルバドルで署名が行われた中米5カ国とメキシコ間のFTAの近代化について、国会外交・通商委員会が全会一致で承認。貿易ルールの明確化によりメキシコとのさらなる貿易の促進を図る。 - 中米・欧州自由貿易連合(EFTA)間のFTA交渉、第3ラウンド実施(8/20~8/24)
スイス、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインの4カ国からなるEFTAと中米4カ国(コスタリカ、グアテマラ、ホンジュラス、パナマ)はFTA交渉第3ラウンドを実施。コスタリカ貿易振興機構(PROCOMER)の調査によるとスイス・ノルウェー市場に向け可能性が高い品目は450品に及び、特に農業分野にチャンスがあるとの結果。次回交渉は10月29日の週に実施予定。 - 韓国、FTA交渉に向け10月に訪問団を派遣(8/22)
チンチージャ大統領の訪韓に伴う会談の席で、コスタリカとのFTA交渉に向け10月にも訪問団を派遣すると李明博大統領がチンチージャ大統領に約束。李大統領は新興国との貿易の重要性について触れつつも、交渉再開については明言せず。 - カナダとのFTA近代化交渉、第5ラウンド開始(8/30)
2002年に発効となったカナダとのFTAについて、原産地規則や市場アクセスに関し、二国間貿易をさらに促進すべく近代化を図ることを目的とした交渉の第5ラウンドが開始。
ウ その他
- 中国への輸出、前年比で倍増(8/20)
コスタリカ貿易振興機構(PROCOMER)によると、本年1~7月までの対中国輸出は前年比で107%増となった。主たる品目は電子部品、オレンジ果実、電気ケーブル、木材等。2011年に発効した中国とのFTAをさらに活用し、生肉や乳製品などさらに多くの品目で輸出増を目指すとゴンサレス貿易大臣。 - 民間セクターの企業自信指数低下(8/22)
493企業を対象とした民間企業部門商工会議所(UCCAEP)の調査によると、第3四半期に向けた企業自信指数は前期比で0.7ポイント低下の6.1に。最も悲観的なセクターは農業部門で、最も楽観的なセクターは金融部門。自信指数低下の原因としては、為替バンド制による不確実性、資金調達の困難さに加え、公的政策の一貫性の無さが挙げられる。 - 為替レート、引き続きバンド下限の1ドル500コロン付近で推移(8/28)
中銀による総額186百万ドルに昇るドル買い介入にも関わらず、第2四半期の為替レートは為替バンド下限である1ドル500コロン付近で推移。金利高による投資家のコロン選好がドルの過剰供給を招いており、各民間銀行の予測ではこの傾向はしばらく続く見込み。