コスタリカ経済 定期報告(2012年11月)
※出典:中銀発表月次資料(10月又は11月分までの経済数値)
主な出来事については各省庁プレスリリースおよび当地新聞記事(1)による。
1 経済活動指標
- 10月の経済活動指標は、2011年3月以来最も低い2.39%となった。
- 製造業においては前年比0.5%減とマイナス成長となった。2011年5月以降、2008年のリーマンショックによる不況からの回復期として前年比成長率は増加傾向にあったが、これが一段落したことが要因のひとつと見られる。製造業の伸び率鈍化に伴い、輸出入においても増加率が抑制されることから、運輸・倉庫・通信部門の成長率も縮小傾向にある。
- 金融仲介サービス及び企業向けサービスは依然8%に近い成長率を維持しているほか、建設、商業も4~6%の伸びを維持している。


2 貿易
- 1~11月の累積貿易額は、輸入が前年比8.3%増の16,104百万ドル、輸出が前年比9.3%増の10,459百万ドル、貿易赤字額は前年比6.6%増の▲5,645百万ドルとなった。
- 11月単月では、輸出額はマイナス成長となった前月からやや回復したが、前年同月比2.3%増とひき続き増加率は低い水準となっている。
- セグニーニ輸出会議所会頭は、累積輸出総額では前年比で増加していても、実際には特定セクターと数社の大手企業のみが増加しているだけで、農業セクターを中心に競争力強化に成功していないセクターもあるため、セクター別分析と政府の競争力強化政策が必要であると述べている。




3 財政収支
- 10月までの中央政府の財政収支は、歳入が前年同期比10%増、歳出が同比9.5%増で、財政赤字の対GDP比率は前年より0.1ポイント低い▲3.5%となった。
- 歳出においては、政府による支出削減努力が引き続き実施され、給与等に関する支出の増加率が前年より3ポイント低い9.3%となった。また、2011年には前年比で5.3%の減少となった資本費用は回復しており、前年比7.1%の増加となった。

4 物価上昇率
- 11月の物価上昇率は0.81%と2008年以来の高い値となった。年間換算値では5.22%となり、今年初めて5%を上回った。
- 上昇の主たる要因は水道料金と電気代の値上げ、都市部のバス運賃の値上げである。水道料金は、58%増と過去1年間で最大の増加となった。また、ガソリン価格も13.2%の上昇となっている。


5 為替・金利
(1) 為替レート
- 為替レートは、10月30 日~11月1日にかけ一時的に1ドル505コロンまで下落したが、翌2日には500コロン台に戻り、引き続き為替バンド下限で推移している。一部専門家の間では、当局の為替介入がなかった場合、1ドル450コロンまで上昇していただろうとの見方もある。

(2) 金利
- 11月の基本預金金利(2))は、下降傾向を見せており、月初の10.25%から月末には9.50%まで低下した。10月末にチンチージャ大統領が国立銀行の預金金利高傾向に対し懸念を表明したことと、ユーロ債発行が実現したことにより政府による財源確保が緩和される見込みが生じたことが要因と見られている。


6 外貨準備高
- ユーロ債発行による1,000万ドルの調達と、計217百万ドルのドル買い介入により、11月末時点の外貨準備高は6,530百万ドルに達した。これにより、中央銀行が2012年初頭に掲げた目標値である1,500百万ドルの外貨準備高増加は達成された。一方、当局のドル買いによりコロンの供給が増加し、インフレ懸念があるほか、これを避けるための当局の不胎化介入によりコロン建ての調達金利が上昇する可能性が専門家より指摘されている。

7 主な出来事(11月)
(1)国内経済
ア 財政関連
- 財務省、ユーロ債発行(11/16)
16日、財務省はロンドン、ニューヨーク等の主要市場での投資家向け説明会を終え、当国による国際市場における国債発行としては最高額の10億ドル分のユーロ債を発行、新興国国債の需要高傾向を受け発行額の約5倍の購入申し込みがあった。償還期限は10年、金利4.25%。金利は国内でのドル建て債券より30%低く、金利負担の低減が期待される。調達財源のうち約8億ドルは2013年初頭のドル建て債券償還に充てられる予定。 - 2013年予算国会で承認、予算規模は6兆4千万コロン(11/28)
2013年国家予算6兆4千万コロン(約128億ドル)が国会の第2次審議を通過し、承認された。財政赤字削減に向け、政府は支出の抑制と収入の増加に努めているものの、支出については憲法等の規定により柔軟性の低い項目が多く硬直的であることから、基本的には2012年を踏襲した歳出構造となっている。分野別では、教育関連予算が圧倒的に多く全体の27%を占め、次いで労働、社会保障(年金制度を含む)と厚生等を併せた福祉・社会保障関連が20%を占めている。
(2) 対外経済
ア 対外直接投資
- 米ボルカノ社、米国外初の工場を操業開始(11/8)
米国の医療機器大手ボルカノ社は、4千万ドルを投じた医療機器新工場の操業を開始した。ボルカノ社は2010年にコスタリカで操業開始し、現在250名の従業員を抱えるが、工場がフル稼働すれば雇用は800名に増える見込み。新工場による商品は、米国、欧州及び日本の同社の地域物流拠点に出荷される。 - インドIT大手インフォシス社、コスタリカへの投資を決定(11/8)
コスタリカ投資促進機構(CINDE)は、インドに本社を置くIT大手インフォシス社が、米国市場及び成長傾向にあるラテンアメリカ市場に対応するためのサービスセンターを開設し、2013年1月に操業を開始する旨発表した。数週間前には、リーベルマン副大統領はじめCINDEや貿易省関係者による代表団がインドを訪れたばかり。 - コロンビア資本のDavivienda銀行によるHSBC銀行の買収手続き終了、屋号変更へ(11/20)
昨年12月にコスタリカ、ホンジュラス、エルサルバドルでのHSBCの事業を8億ドルで買収することを発表したDavivienda銀行は、金融機関監督庁による認可手続きを終え、順次、屋号をDaviviendaに変更すると発表。今後中米地域での事業拡大を目指す。 - ロシアIT企業大手Softline International、コスタリカへの投資を発表(11/27)
旧ソ連各国やアジア、欧州等23カ国で事業展開するロシアのIT企業大手Softline社は、中米およびカリブ各国での事業展開を図るため、コスタリカに支社を設立することを発表した。ラテンアメリカではコロンビア、アルゼンチン、ペルーに拠点があるが、中米では初めて。投資規模や雇用等詳細は後日発表される。
イ FTA・経済協定等
- 欧州自由貿易連合とのFTA交渉第4ラウンドが終了(11/2)
コスタリカを含む中米各国(パナマ、ホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラ)と欧州自由連合(スイス、ノルウェー、リヒテンシュタイン、アイスランド)とのFTA交渉第4ラウンドがスイスにて終了し、一般規則と市場アクセスで、交渉終了に向け顕著な進歩が見られた。次回交渉は12月第2週にグアテマラで実施される予定。
ウ 観光
- 2011年の医療観光動向、好調に推移(11/19)
2011年に関する医療観光動向が医療観光協会より発表され、同年の医療観光客数は48,253人、約3億37百万ドルの収入となった。これは2011年の1~9月のコーヒー輸出額3億16百万ドルを上回る。1人あたり平均消費額は7千ドルだが、65%が1万ドル以上を消費している。受診科別では、42%が歯科治療、22%が整形外科、婦人科等の外科手術となっている。 - 観光庁、観光客増目指し中国への派遣団を準備(11/26)
観光庁(ICT)は、中国からの観光客誘致に向け、中国へ派遣団を送る準備を進めており、2013年上半期にはフローレス観光大臣が航空協定に署名するために訪中する旨発表した。同協定に関する覚書は、8月の大統領訪中時に既に署名済み。また、11月半ばには同庁職員を中国で開催された観光フェアに派遣しており、代理店等とのコンタクトを図った。
エ その他
- 携帯電話事業自由化から1年、消費者は良い評価(11/5)
ラ・レプブリカ紙の調査によると、消費者の68%が携帯電話事業の自由化を評価していることが明らかになった。コスタリカ電力供給公社(ICE)の独占であった同事業には、現在Claro社、Movistar社が参入しており、競争が激化しつつある。地方自治体の多くが新たなアンテナ建設に同意していないことから、後発2社は苦戦を強いられているが、3社とも2013年にはさらなる事業拡大を計画している。 - 輸出部門、55万3千人の雇用を提供(11/5)
輸出部門での雇用状況についてのコスタリカ貿易振興機構(PROCOMER)の調査によると、財輸出部門が41万3千人(前年比9.4%増)、サービス輸出部門が14万人(同比25%増)、計55万3千人の雇用を提供しており、経済危機前の2008年の水準を上回った。ゴンサレス貿易大臣によると、輸出部門での雇用は全体の28%にあたり、この値はラテンアメリカ地域内でもチリやウルグアイ、ブラジルといった国々を上回るとのことである。 - 貧困人口が過去最高を記録、格差も拡大傾向に。専門機関による調査結果(11/7)
公共政策提言等を行う、国立4大学による機関「Estado de la Nación」が発表した2011年版の調査結果によると、貧困人口は過去最高の114万人を記録、うち33万人が極貧状態となった(注:コスタリカの全人口は467万人)。平均所得は4%の伸びになったものの、格差は拡大しており、上位5分の2の層は前年比で所得は増加しているが、下位5分の1を占める層では7.2%の減少となった。さらに、国民の2.4%にあたる10万4千人の先住民族のうち30~35%が上水道へのアクセスがなく、電気普及率も80%に留まっており、先住民族に対する社会福祉の面での対応の遅れが指摘されている。 - 乗用車市場、新車輸入が増加し中古車輸入は減少(11/12)
財務省の発表によると、1月~9月の乗用車輸入は、新車が前年比29%増となった一方で中古車は7%減となった。新車輸入台数は20,296台に上り、1日あたりに換算すると90台となる。新車輸入台数増加の要因として、中古車に比べ有利な条件での融資提供が増加したほか、課税の際の中古車の価値算出方法の変更により納税額増加の可能性があることが挙げられる。 - ゴンサレス貿易大臣、次期WTO事務局長候補に(11/14)
2013年8月に任期を終えるラミーWTO事務局長の後任として、ゴンサレス貿易大臣が候補に挙がっている旨ロイターが9月に報じた件について、13日、WTOのボッシュ報道官はこれを肯定した。同大臣は2005年から2009年までWTOの農業委員会委員長を務めている。12月1日~31日にかけ次期事務局長の立候補受け付けが行われる予定だが、同大臣は11月14日時点では立候補表明は行っていない。(注:12月18日、チンチージャ大統領は同大臣の正式立候補を発表した。) - 基本預金金利、7月以降初めて10%を下回り9.75%に(11/15)
金融機関の貸付金利設定の基本となる基本預金金利が7月18日以降初めて9.75%まで下落した。10月末には国立銀行のコロン建て貸付に顕著に見られる昨今の金利上昇傾向について、チンチージャ大統領が懸念を表明していた。これを受け、基本預金金利の算出方法の見直しが議論されており、中央銀行は近々新たな算出方法を公表し民間セクターの意を問う予定となっている。また、近々ユーロ債が発行予定であることも金利下落に影響を与えている模様。 - 中銀、基本預金金利の新算出方法を発表(11/20)
ボラーニョス中銀総裁は新たな基本預金金利の算出方法を発表。新方法では、算出の際の各値への重み付けを見直し、極端な高値や低値等の異常値を除くほか、調達額の多い機関ほど重み付けが大きかった点を改め、各機関とも同等の重み付けとする。また、端数処理についても、現在0.25%ごとを0.05%ごとに変更(例:計算結果が8.16%の場合、現方法では8.25%となるところが新方法では8.15%となる)する。これらにより、金利の安定化を図る考え。
(1) La Nación紙, La República紙、La Prensa Libre紙
(2) 国内金融機関、中銀、財務省による資金調達金利(150~210日)の平均