コスタリカ経済 定期報告(2012年4~7月)
※ 出典:中銀発表月次資料(6月分までの経済数値、財政収支は5月末時点まで)、観光庁
1 経済活動指標
- 6月の経済活動指標は、5.34%と、前年同期(3.75%)を上回る成長率を見せたが、2011年11月からの成長率加速の傾向は一段落しつつある。
- 2011年11月から2012年3月にかけ、主として米国向け輸出の回復によりフリーゾーンでの製造が活発化したことにより、製造業が大きな伸びを見せたが、2012年4月より増加率は下降傾向にある。これは、2010年7月~2011年3月の間のマイナス成長(生産量の減)からの回復による一時的な増加率の拡大がひと段落したことによるものである。
- コールセンター等の企業向け仲介サービスを中心にサービス業はいずれも安定的な成長傾向が続いている。金融仲介サービスの伸びは、クレジットカード手数料、為替売買および民間セクターへの預金・貸付の活発化によるものであり、内需の活発化を示唆している。


2 貿易
- 1~6月の貿易額は、輸出・輸入とも前年を上回るペースとなり、6月時点での累積輸入額は8,589.9百万ドル(前年比11.3%増)、同輸出額は5,877.6百万ドル(11.0%)で、貿易収支は2,712.3百万ドルの赤字となった。
- 輸出額の増は、主として米国の景気回復に伴うフリーゾーンでの製造業による輸出の回復が要因であるが、コーヒー、パイナップル等のフリーゾーン以外の輸出も増傾向にある。
- 輸入については、5月に前年比13.2%増となった点が傑出しているが、これは主として石油輸入高の増加(前年比34.6%)による。4~6月の傾向としては、食料品等の一般消費財の増加傾向がひと段落した一方で、建設業の回復、通信業の成長に伴い、建設資材及び資本財の輸入増が見られた。




※特別レジーム:フリーゾーン及び特別ドローバック制度
3 財政状況
- 中央政府の財政赤字(5月末時点)は対GDP比1.9%となり、前年同期(2.1%)を下回った。これは、資本支出の抑制等により歳出の増加率が抑えられたことに加え、輸入の増加に伴う関税等の税収増、内需回復による売上税の増加により、歳入が増加したことによる。
- 財政赤字は若干の圧縮になったものの、赤字分を債務で補う構造に変化はなく、財政構造の改革が求められている。財務省は民間の意見も取り入れつつ2012年中に新たな財政改革案を策定し、2013年初頭にも発表したい考えである。


4 物価上昇率
- 6月の物価上昇率は0.16、年間換算値は4.61%と安定的に推移し、年間目標値以内となった。4.61%は6月の数値としては過去35年間で最も低い値である。当月の物価上昇の主な要因は、乳製品(0.06ポイント)、タバコ(0.04ポイント、タバコ管理法の施行に伴う上昇)、牛肉(0.03ポイント)、電力(0.02ポイント)であった。
- 物価上昇率は過去4年間で安定的に推移しており、小売業者間の価格競争による家電製品、電子機器類や衣類等の価格低下も一要因とされている。


5 為替・金利
- (1)為替レート
政府財政赤字の改善見通しがたたないことによるコロン建て金利の上昇から、コロン高が続いているが、6月に入ってからもこの傾向は変わらず、為替レートはバンド下限(1ドル=500コロン)に貼り付いた状態となった。6月21日には一時バンド下限を下回ったため、中銀はドル買い介入を実施した。 - (2)金利
金利指標として用いられる基本預金金利 は上昇傾向が加速しており、5月には2009年10月以来の10%台に突入、8月には10.5%に達した。
財政赤字によるコロン需要高により、引き続きコロン建て金利がドル建てを大きく上回る傾向が続いている。



6 外貨準備高
- 6月末時点での外貨準備高は、経常収支の赤字(▲689.7百万ドル)を、主に海外直接投資の流入による資本収支の黒字(806.3百万ドル)が補う形で、5月より116.6百万ドル増加し、4,869.5百万ドルとなった。これは2012年のGDP予想値の11%にあたり、輸入額の4.4倍、短期対外債務残額の1.4倍に相当し、概ね適性水準であるといえる。

7 観光動向 (第2四半期)
- 第1四半期に引き続き各月とも前年を上回り、上半期の総入込客数は1,285,599人、前年比6.2%増となった。
- 第1四半期に引き続いてリベリア空港(北部グアナカステ)からの入込が増加しており、前年同期比29.2%増となった。リベリア空港利用者のうち82.9%が米国からの渡航者である。
- 米国を中心とした北米からの渡航者が引き続き増加する一方で、欧州からの渡航者の減少幅は拡大し、4.6%減(第1四半期1.9%)となった。


8 主な出来事 【4~7月】
(1)国内経済
ア 財政関連
- 財政改革法案、憲法法廷で違憲判決(4/10)
審議が難航していた財政改革法案について、法案審議手続きに憲法違反があったとして、最高裁憲法法廷(第四法廷)が法案を無効とする判決。 - チンチージャ政権、新たな財政改革案提出(4/18)
無効となった財政改革法案の代替案として、政府は「財政の効率的管理に関する法案」を含む新案を提出。一部奢侈品の売上税免税廃止のほか、公的機関の高額給与幹部職員の給与・手当等の凍結、公的機関の剰余金及び利益の中央政府への移転認可等が含まれ、これらの新案による財政赤字圧縮額は986億コロン(197百万ドル、GDP比0.43%)と試算。 - アジャレス新財務大臣就任(5/1)
4月2日、保有資産の時価更新を怠ったことによる脱税の疑いで辞任したエレロ前財務大臣の後任として就任。 - 上半期の財政赤字、前年同様GDP比2.2%(7/11)
財務省の発表によると、2012年上半期の歳入は前年同期比で11.7%の増加となったものの歳出も10.4%増加し、財政収支は4,860億コロン(9億72百万ドル)の赤字(対GDP比2.2%、前年同期と同数値)となった。アジャレス財務大臣は国会に対しユーロ債発行に関する法案の早期可決を要請。 - チンチージャ大統領が政権期間中の財政改革をあきらめる旨発言(7/19)
チンチージャ大統領は訪問中のパナマで会見し、現政権に残された18ヵ月では財政改革は困難である旨述べ、「できるだけのことをしてきたが、国民は税を払いたがらない」と発言。民間セクターは、問題の先送りであるとして政府を批判。 - 財政改革に関する3法案が国会一次審議を通過(7/31、8/1)
審議中の3法案が一次審議を通過。二次審議でも早晩可決される見込み。
- 徴税強化に関する法案:脱税に対する罰則強化
- 財政の透明性基準達成に関する法案:海外の税務当局への納税者情報の提供
- 国債発行に関する法案:最大40億ドルの外国起債の裁可 - コメ生産への補助金が5年連続でWTO基準を超過(5/8)
固定価格の採用による2011年のコメ生産者への補助金は1億4百万ドルに達し、WTOとの合意で定められた1年あたりの補助金限度額1550万ドルを5年連続で超過。生産者からは引き続き保護を訴える声が挙がっている。 - 証券取引所の再活性化のための条例にリーベルマン副大統領が署名(5/31)
取引参加者、取引高ともに遅れが目立つ証券取引所の再活性化のための条例に署名。透明性を確保し取引を活発化させて企業の資金調達手段を多様化し、国の競争力拡大に寄与させる考え。証券取引所開発委員会を7月1日に発足予定、今年中には新法案策定に向けた戦略を検討。パナマに投資が集まることを懸念しての対策。 - クリーンエネルギー販売に民間10社を公募(6/13)
コスタリカ電力公社(ICE)は約10年ぶりに電力の民間からの購入を認める法第7200号を適用し、10社から計140MW(5万6千戸分)を購入すると公示、総購入額は3億5千万ドルの見込み。これにより再生可能エネルギー使用率を増加させたい考え。 - コスタリカ・ブリヂストン社、カーボン・ニュートラルへの取り組みにより表彰(6/29)
環境エネルギー通信省は、ブリヂストン社を含む8社に対し、カーボン・ニュートラルへの取り組みにより表彰を授与。受賞した他の7社はインテル・コスタリカ社(米)、トラベル・エクセレンス社(米:観光)、フロリダ・ベビーダス社(飲料)、フロレックス社(洗剤)、ホルシム・コスタリカ社(スイス:セメント)、ドス・ピノス社(乳製品)、プリセム社(建設資材)。 - 保険市場にベネズエラ企業が参入(7/5)
保険監督庁はベネズエラ企業「オセアニカ」の保険市場への参入を認可。2008年の保険市場開放以来11番目の参入。保険市場は近年成長傾向にあり、過去2年間で14%の成長。個人向け保険はさらに成長が著しく、2011年には34%の成長を記録しており、企業参入が活発化している。 - 基礎預金金利、2009年10月以来10%台に(6/21)
財政赤字に解消の方向性が見えないことが主たる原因となって金利が上昇。1~5月の間に政府は金融市場で580億円を調達、これが市場に圧力を与えている。リーベルマン第2副大統領は、ユーロ債発行に関する法案の早期承認を要請。 - 会計検査院、民間企業による水力発電所建設契約を承認(7/21)
会計検査院は、ICEとイドロタルコレス社(Hidrotarcoles S.A.)間での水力発電所建設に係るBOT方式(Build,Operate,Transfer)での契約を承認。投資金額は540億コロン(約1億7百万ドル)。これにより電力業界への民間参入が加速されるとの見方も。 - 中銀がマクロ経済予測の見直し発表、GDP成長率を上方修正(7/31)
中銀は2012~13年のGDP成長率見通しを上方修正し、2012年は4.8%(当初見通し3.8%)、2013年は4.2%(同3.5%)とした。インフレ予想は当初見通しから変更はなく5%(上下変動1%以内)とした。 - インテル社、コスタリカへの投資開始から15年を記念した式典を実施(5/2)
チンチージャ大統領出席のもと、インテル社はコスタリカ進出15年記念式典を実施。インテル社の生産高はコスタリカの国内総生産の6%にあたる1兆2千億コロン(24億ドル)を占める。同社の存在は多くの企業の誘致に貢献しており、コスタリカ投資促進機構(CINDE)によると、現在、ハイテク製造分野で47社、生命科学分野で41社、サービス分野で100以上の企業が操業、7万の雇用を生んでいる。 - IBM、ITサービスセンター設立、今後10年間で3億ドルの投資(5/10)
IBMは、過去8年間で最高額となる3億ドルを今後10年間で投資してITサービスセンターを開設し、1000の専門職雇用を創出すると発表。さらに、国内の大学と共同し、現状の需要に合わせたIT教育を実施するイニシアティブにも着手する。 - CINDE2012年のFDI見込み値発表、22億5千万ドルに達する見込み(5/25)
2012年1~5月の海外からの直接投資実績は前年比(2011年21.04億ドル)で7%の増加、中央銀行目標値の22.5億ドルに達すると発表。米国の景気回復傾向が主たる要因。ハイテク分野だけで30の新規プロジェクトが実施される見込み。また、電力分野においてもEnel社(伊)等による2つのプロジェクトを実施予定。 - カタール、トルコ、中国、オランダとのオープンスカイ協定交渉(5/8)
規制なしに直行便の乗り入れを可能にするオープンスカイ協定に関する交渉を、カタール、トルコ、中国、オランダと進めていると発表。カタール、トルコ、中国とは新規交渉、オランダとは既存協定の見直し。コスタリカはこれまでに米国、ベルギー、ブラジル、カナダ、チリ、コロンビア、UAEとオープンスカイ協定を締結している。 - 欧州自由貿易連合とFTA第2ラウンド交渉開始(6/4)
パナマにおいてスイス、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインとのFTA交渉の第2ラウンドを開始。グアテマラ、ホンジュラス、パナマと合同での交渉。本年第2四半期末までには交渉を終えたい考え。 - 中米・EU経済協定に署名、パナマがSIECAに加盟(6/29)
テグシガルパにおいてEUとの経済協定に署名。これと同時にパナマがSIECA加盟。EUとの経済協定については早期に国会審議を終え年内に批准したい考え。 - 観光フェアExpoTur開催、27カ国が参加(5.11)
エコツーリズムのほか、近年成長傾向にある医療ツーリズムや会議需要を取り込むべく、27カ国の330社とコスタリカ企業220社が一堂に会して観光フェア開催。 - 2012年世銀Doing Businessレポート コスタリカは121位(183カ国中)
世銀が毎年実施するビジネス環境に関するランキング調査にて、前年同様121位。中米近隣諸国と比較し、企業設立の際の手続きにかかる日数の多さ、資金調達等でランクを下げる。 - チンチージャ大統領がOECD年次フォーラムでOECDへの加盟の意思を正式表明(6/14)
中進国からの脱却を図るために先進国のベストプラクティスに学ぶことを主たる目的とし、OECDへの加盟希望を正式表明。 - 日本の焙煎業者が最高級コーヒーを高値で落札(7/3)
毎年開かれるカップ・オブ・エクセレンス・コンテストで、本年1位を獲得したコーヒーについて、日本の焙煎業者3社が過去の同コンテスト最高値の1キンタル(46キロ)4,500ドルにて落札。同日のニューヨーク商品取引所での終値は1キンタル180.45ドル。落札者は焙煎業者である丸山珈琲、横井珈琲、ボンタイン珈琲の3社。 - 上半期の輸出高、前年同期比で10.9%の伸び(7/19)
コスタリカ輸出振興機構(PROCOMER)発表数値によると、2012年上半期の財の輸出は58億51百万ドル、前年同期比で10.9%の伸び。米国の景気回復によるフリーゾーンからの輸出の伸びが主たる要因。産業別では、産業別では、酪農業・漁業が17%増の1億47百万ドル、製造業が14.4%増の43億29百万ドル、農業が0.7%増の13億74百万ドル。貿易相手国では、米国が38.4%を占める。
イ その他
(2) 対外経済
ア 海外直接投資
イ FTA・経済協定等
ウ その他
(出典)コスタリカ中央銀行、コスタリカ観光庁、当地各紙