コスタリカ経済 定期報告(2013年7・8月)
※出典:コスタリカ中央銀行(7~8月分数値)
主な出来事については各省庁プレスリリースおよび当地新聞記事(1)による。
主な出来事については各省庁プレスリリースおよび当地新聞記事(1)による。
【ポイント】
- フリーゾーンにおける製造業の回復により、経済活動指標は若干回復し、前年同月比成長率2.99%となった。しかし、フリーゾーンを除くと引き続き成長率は低下しており、特に建設業や商業を中心とした内需を反映する分野で回復の兆しが見えていない。
- 中央銀行は、融資バブル防止策として実施していた金融機関の融資成長率制限を7月31日に撤廃した。同制限策は、成長の防げになるものとして金融機関から反発の声が挙がっていた。
- 貿易は、輸出入とも2カ月ぶりに前年同月比プラス成長に転じた。輸出の増加は、フリーゾーンからの輸出の増加によるもので、フリーゾーン以外の国内産業による輸出は引き続き前年同月比で減少している。
- 8月1日に発効予定であった中米・EU連携協定について、コスタリカとエルサルバドルに対しイタリアがEU理事会にて拒否権を発動。イタリアが要求していた24品目に係る地理的表示のうち4品目をコスタリカが拒否したことによる。この結果、発効時期は早くとも9月になる予定で、先行して発効するパナマ、ニカラグア、ホンジュラスが対EU輸出シェア獲得に際し有利になる。
1 経済活動指標
- 製造業が回復基調にあることにより、7月の経済活動指標は前年比2.99%の成長となった。しかし、製造業の回復は主としてフリーゾーン内での電子部品関連産業によるもので、これを除いた7月の成長率は前月に続き低下し、2.13%(6月2.21%)となっている。
- 内需を反映する産業である建設業や商業においては、成長率は引き続き低下傾向にあり、内需回復の兆しは未だ見えない状況である。


2 貿易
- 7月の貿易は、輸出入とも、2カ月ぶりに前年比でプラス成長となった。
- 輸出においては、フリーゾーンからの輸出の伸び(前年同月比7.0%増)が成長を牽引した一方、フリーゾーン以外の製造業は前年同月比3.7%減となっている。
- 輸入においては、非耐久消費財(前年同月比7.6%)やフリーゾーン以外での製造業の資本財輸入(同15.2%増)が増加傾向にあるが、これが翌月以降、内需回復につながっていくかが注目される。




特別レジーム:フリーゾーン+順委託加工
3 財政収支
- 8月末時点での財政赤字対GDP比は、前年同期を0.5ポイント上回る▲3.4%となった。歳入が前年同月比8.6%に留まる一方で歳出は13.2%の増加となった。
- 歳入では、売上税の増加率が停滞し前年同期比2.6%増(前年12.2%増)に留まったほか、奢侈税も前年比8.1%減となるなど、消費を控える傾向が影響を与えている。
- 歳出においては、国内債務に対する金利負担の増加(前年同月比29.2%増)による影響が大きく、金利を除いた支出は前年同期比11.2%増で、前年並み(前年11.3%増)となっている。

4 物価上昇率
- 8月末時点の物価上昇率(年間換算値)は5.31%と中銀の目標値である4~6%以内に留まったが、前年末からの公共サービス料金の上昇(教育、交通機関、電気、水道等)による物価上昇の影響により、8月末時点での累積物価上昇率は前年同期を0.75ポイント上回る3.64%となっている。
- 前年後半からの度重なるドル買い為替介入の影響で、コロン通貨の流動性が増加し、インフレ圧力となることが懸念されていたが、中銀は、これまでのところこの影響は出ていないとしている。


5 為替・金利
(1) 為替レート
- 7~8月の為替レートは、引き続きバンド下限の1ドル500コロン付近で安定的に推移した。
- 1ドル501コロンを超える日も見られた6月と比べると、7~8月は500コロン台前半となる日が多く、ややコロン高傾向となった。中央銀行によるドル買い介入額は、7月が26.7百万ドル、8月は84.6百万ドルとなり、6月の6.5百万ドルを大きく上回った。
- 米国FRBが近く金融緩和策を撤廃するとの見通しにより、ブラジルやチリ、メキシコなど一部のラテンアメリカ諸国では現地通貨安傾向が表れたが、コスタリカにおいてはその影響はまだ表れておらず、今後の動向が注視される。

(2) 金利
- 8月末時点の基本預金金利(TBP)(2)は6.55%となり、下げ止まった様子を見せている。
- 中央銀行による金融引締め策である融資成長率制限が7月末に撤廃されたことから、今後は資金需要が増加すると予測されるが、市場の通貨供給量はむしろ過剰気味であるため、金利上昇圧力にはならないものと見られる。


6 外貨準備高
- 8月末時点での外貨準備高は7,719百万ドルとなった。

7 主な出来事(7・8月)
(1)国内経済
ア 財政関係
- 新たな財政強化案、完成まで最大2カ月の遅れ(7/5)
アジャレス財務大臣は、5~6月に完成予定とされていた新たな財政強化案の完成にさらに2カ月程度かかると発表。検討に向けた議論に参加する学術関係者や専門家等が増加したことが原因。同案は、2014 年に次期政権下での国会提出を目指している。 - 上半期の財政赤字、対GDP比2.3%(7/17)
上半期の財政は、歳入が前年比10.6%増、歳出が8.8%増で、財政収支は対GDP比▲2.3%となった。歳出は増加率を前年より抑えたものの、前年を通して見られた金利高の影響を受け、支払い金利が24%増(前年5%増)と大きく増加した。
イ 民間セクター関連
- 害虫と国際価格下落によりパーム油生産者に打撃(7/9)
害虫による被害でパーム油(第9位の輸出品)のパーム農地の30%が被害を受けているほか、パーム油の国際価格も、1年間で30~40%下落となっており、パーム油生産者への打撃が懸念される。2012年時点ではパーム油の輸出高は減少しておらず、今後の動向が注視される。 - 航空関連企業数が増加(7/16)
2000年から2013年にかけ、航空関連産業に係る企業数が増加。企業数は2000年の83%増にあたる55社となり、16千人が雇用されている。本年の見通しも明るく、さらに8,200名の雇用を創出する予定。2014年にはメキシコ、欧州、カナダ、米国の大手企業参加の元、当国にて「中米航空会議」が開催される予定。 - ハイブリッド車への奢侈税減税に政府が署名(7/22)
政府はハイブリッド車の奢侈税を減税する旨の政令修正に署名を行った。今回の修正では、奢侈税が15%から10%に減税される。環境エネルギー省によると、本年6月時点でハイブリッド車238台が登録されている。
ウ その他
- コメ価格固定制の変更に向けた政令をめぐり経済省とコメ生産者が対立(7/4)
WTOより採算の指摘を受けているコメ価格固定制について、これを段階的に廃止する政令案を提出した経済省に対し、コメ生産者組合が他国では生産コストがコスタリカより安いとして輸入米との競争力のなさを理由に反発。経済省側は、生産者の生産性向上への努力不足を指摘、両者は対立を深めている。 - 2013年上半期の消費者自信指数、過去5年間で最も低い数値(7/8)
上半期の消費者自信指数平均値は、2009年以来の低い数値となった。月別で見ると、6月の同値は4.2となった(数値が高いほど良好)。調査対象者のうち約5割が、1年前と比べて経済状況が悪化したと回答しており、特に低所得者層でこの傾向が強い。本年初頭のインフレ率上昇が一因と見られている。 - 公共工事減少、建設業界に打撃(7/18)
上半期の公共工事が前年同期35%の減少となったことの影響を受け、上半期の建設工事面積は12%の減少となり、建設業界が打撃を受けている。民間部門は3.9%の減少。民間部門の減少には、中銀による融資成長制限策が影響を与えているとする見方もある。 - コスタリカ大学、下半期のGDP成長率を3.3~4.3%と予測(7/22)
コスタリカ大学経済科学研究所は、2013年のGDP成長率を3.3~4.3%と予測。世界経済の回復の遅れと、消費者自信指数の低さに見られる消費の低迷が主要因。基本預金金利(TBP)は6.1~7.1%、インフレ率は5~6%で推移すると予測。 - 中銀、金融引締め策である金融機関の融資成長率制限を撤廃(7/31)
中銀は、31日に発表した2013-14マクロ経済政策見直しにおいて、民間セクターから撤廃を求める声が強まっていた融資成長率制限を撤廃すると発表。一方で、今後のコロン安や金利高の可能性に触れ、特にドル建て収入のない借り手に対するドル建て融資には慎重に対応するよう金融機関に要請。 - 中古車の奢侈税を減税、中古車業界に配慮(8/8)
政府は中古車の奢侈税の減税を発表。中古車の奢侈税は、3年以下が30%、4~5年が40%、6年以上が53%となっていたが、今後は6年までの中古車が30%、7年以上が48%となる。昨年12月の財務省による査定価格基準の変更により輸入課税価格が上昇して輸入業界に打撃を与え、本年の輸入台数は前年比40%減となっていた。
(2) 対外経済
ア 自由貿易協定(FTA)・貿易関係
- シンガポールとのFTAが発効(7/1)
2010年1月に交渉を開始した対シンガポールFTAが1日に発効。2012年の対シンガポール輸出高は746.1百万ドルで、全品目で関税が撤廃されるほか、シンガポールからコスタリカへの輸出では91%が即時撤廃される。 - 貿易省、今後は地域間協定に注力(7/10)
ゴンサレス貿易大臣は、今後は二国間FTAよりもOECD加盟や太平洋同盟などに注力するとの方向性を示し、二国間FTA締結には相手国の意向も必須であり、韓国やインド、日本との交渉にはこれが得られていないと述べた。民間セクターの間では、食料加工品会議所(CACIA)等から、近年の政策はFTA締結を活用する国内政策が欠如しているとの批判が出ている。 - 中国への豚肉輸出、2014年に(7/20)
農牧省が豚肉の対中輸出の早期実現を目指す中、動物検疫局(SENASA)は、輸出開始は2014年になるとの見込みを発表。豚肉の対中輸出は、6月の習近平国家主席の来訪時に衛生基準への署名がなされており、生産場の検査・保証が必要要件となっている。 - 中米・EU連携協定の発効遅れる(7/24)
貿易省は、8月1日に発効予定となっている中米・EU連携協定について、コスタリカとエルサルバドルに関し、EU理事会においてイタリアが拒否権を発動したと発表。イタリアがコスタリカに対し要求していた24品の地理的表示のうち、ゴルゴンゾーラなどチーズ類4品についてコスタリカ側が拒否したことが原因。次の発効時期は早くとも9月になる予定で、先に発効するパナマ、ニカラグア、ホンジュラスが輸出シェア獲得に際し有利になる。
イ 海外直接投資(FDI)関連
- FDI、不動産投資が復活傾向(7/10)
第1四半期のFDIによる不動産投資が過去最高値の377百万ドルを記録した。これは、同期の不動産投資全体の91%を占める。特に北部グアナカステ地域の海岸沿い地域での不動産投資が回復しているほか、首都圏においてもオフィス向け投資が前年同期比13%、工業向け投資が同比9%の増加となっている。 - 下半期の海外直接投資、成長率低下の見込み(7/15)
世界経済の回復の遅れと公共政策の欠如により、本年下半期のFDIの成長率は停滞するとの見込みを一部専門家が発表。国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)も同様の見込みを示している。 - ZロシアSoftline社、クラウド中南米拠点としてコスタリカを選出(7/31)
IT関連大手の露Softline社は、コスタリカを、同社の中南米におけるクラウド事業の拠点とする旨発表した。2003年にベラルーシで操業した同社は、旧ソ連圏で2万以上の顧客にサービスを提供している。 - インドIT関連大手CCS社がインフォメーション・テクノロジーセンターを開設(8/9)
IT関連コンサルタント等をグローバルに手掛けるインドCSS社がインフォメーション・テクノロジー・センターを開設。ソフトウェア開発等に150名のプロフェッショナルを雇用予定。同センターはCSS社にとってラテンアメリカ初の拠点となる。コスタリカでは英語、西語、ポルトガル語でのサービスを提供予定。
ウ その他
- シンガポール貿易産業大臣が来訪(7/19)
貿易省主催の会議「シンガポール:競争力、イノベーション、未来」に参加するため、リム・フン・キャン(Lim Hng Kiang)シンガポール貿易産業大臣が来訪。1日に発効した。 - 国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)、中南米地域の経済見込みを下方修正(7/25)
ECLACは、中南米地域の経済成長を4月予想値の3.5%から3.0%に下方修正した。メキシコ、ブラジルの成長鈍化に加え、パナマ、チリ、ペルーといった高成長国にも減速が見られることが主たる要因。生産部門の多様化と、投資による生産性向上が必要としている。 - FTA活用に向けペルーに企業ミッションを派遣(8/3)
輸出会議所とコスタリカ貿易振興機構(PROCOMER)は、6月1日に発効したFTAを活用すべく農業やサービス関連企業など12企業をペルーに派遣。同FTAにより、チョコレートや乳製品等80%の商品の関税が即時撤廃されている。