コスタリカ経済 定期報告(2014年3・4月)
※出典:コスタリカ中央銀行(3~4月分数値)
主な出来事については各省庁プレスリリースおよび当地新聞記事(1)による。
主な出来事については各省庁プレスリリースおよび当地新聞記事(1)による。
1 経済活動指標
- 3月の経済活動指標は、2月と同様に金融・保険、金融仲介サービス等のサービス産業及び農林漁業、建設業において引き続き成長が見られたことと、当国の主要産業である製造業でも昨年を上回る数値を記録したことにより、全体で昨年同期の値を2.10ポイント上回る4.30%の成長率を記録した。
- 4月も前述の産業において前年同期の数値を上回る成長率を記録し、全体では昨年の値を2.20ポイント上回る4.60%の成長率を記録した。
- 4月にインテル社はコスタリカにおける生産部門の閉鎖を発表した。同社は、97年から2011年にかけてコスタリカへの外国直接投資額の3~6%を占めており、また2012年にはその生産額がGDPの6%を占めるなど国内製造業における代表的企業であった。そのため、今回の同社の再編は、今後の国内製造業の成長率に影響を及ぼす可能性がある。

2 貿易
- 貿易額(表2)に関し、輸入額は3月が1,607.1百万ドル(前年比▲8.1%)、4月が1,485.4百万ドル(前年比プラス8.1%)となった。輸出額は3月が1,021.7百万ドル(前年比プラス0.6%)、4月が986.3百万ドル(前年比▲1.6%)となった。
- 累積輸入及び輸出額(表3,4)は3月に各4,501.3百万ドル、2,848.1百万ドルとなり、4月には各5,980.5百万ドル、3,829.6百万ドルとなった。貿易収支は、3月時点で▲1,653.2百万ドルで前年同期比7.8%増となった。4月の貿易収支は▲2,150.9百万ドルを記録し、輸入額が前年同期から120百万ドル近く落ち込んだことにより、赤字額は前年同期比0.3%増にとどまった。
- ドル高コロン安のプラスの作用として、国内製品の輸出増大が期待されているが、3-4月時点では前年同期の値と比較して顕著な輸出額増加は見られない。その傾向は貿易成長率(表5)においても確認でき、輸出は前年同期からのマイナス成長(3月▲0.4%、4月▲0.7%)を記録している。他方、輸入に関しては、輸入品価格高騰に伴う顕著な輸入の減少は貿易成長率にも反映され、前年同期の値から5.5ポイント下がり▲0.2%となった。
- インテル社の生産部門の撤退により、将来的な貿易収支の悪化を危ぶむ声もあるが、同社は製造のための部品輸入額も大きかったため、同撤退による貿易収支への影響は限定的なものにとどまるという指摘もある。




3 財政収支
- 3月までの財政収支(表6)は、歳入が前年比約5.5%増(前年同値11%)の約8,867億コロン、歳出が前年比約8.5%増(前年同値11.1%)の1兆2,923億コロンとなり、財政赤字額は前年比約15.6%増の約4,056億コロンとなった。財政赤字の対GDP比は前年から0.2ポイント増の1.6%となっている。
- 4月までの財政収支(表7)は、歳入が前年比約8.3%増(前年値12.4%)の1兆1,979億コロン、歳出が前年比約7.4%増(前年値14.3%)となり1兆6,594億コロン、財政赤字額は前年比約5.0%増の約4,615億コロンとなった。財政赤字の対GDP比は前年の1.8%から0.1ポイント下がり、1.7%となったものの、財政赤字額は昨年同値を上回っている。
- 3、4月とも財政赤字額は昨年を上回る数値を記録しており、新政権にとって財政改善は喫緊の課題となる。ファジャス次期財務大臣は、状況改善のために、まずは徹底した脱税対策を講じ、そのうえで不足分を売上税や所得税などの税制改革 によって補っていく方針を示している。


4 物価上昇率
- 2月から3月にかけての物価上昇率(表8)は前年同月(0.12%)を大きく上回る0.62%となった。また、3月から4月にかけても前年同期(0.74%)を上回る1.14%を記録した。
- 年率換算値(表9)では3月に3.26%、4月に3.68%を記録し、政府の定めるインフレ・ターゲット(3~5%)内にある。
- 4月までの急速な数値の上昇は、年始以来のドル高が電気、ガソリン燃料、高速道路料金などコモデティに反映されたことが要因となっている。
- 年始以来の急激な消費者物価関連指数の変化を受け、次期政権におけるインフレ・ターゲットへの方針が注目されているなか、オリビエル・カストロ次期中央銀行総裁は同指標の当面の維持を表明している。


5 為替・金利
(1) 為替レート
- 対米ドル為替レート(表10)は、2月から3月にかけて若干下がったものの、3月から4月にかけては、月末値1ドル=549.7コロンから554.9コロンと若干のドル高傾向を見せている。
- カストロ次期中銀総裁は、為替レートの極端な変化を抑える手段として、現状のクローリング・バンド制を当面継続しつつも、上限値または下限値の変更及びその幅の縮小を検討していることを表明している。また、為替への介入に関しても、中銀が必要と判断した際には実施していく意向も示している。
- 4月に実施されたユーロ債発行(予定されている全4回のうちの3回目)により、コスタリカ政府は為替を安定させるのに当面必要な外貨量を獲得した。このことが、5月以降の為替変動にどのように反映されるかが注目される。

(2) 金利
- 3月・4月の基本金利(表11)は3月の値(6.50)から微増し、それぞれ6.60、6.70となった。
- ドル建て貸付金利は、国立・民間銀行双方で昨年9月以降の微かな上昇傾向が3月で終わり、4月には若干の下落を見せた。
- コロン建て貸付金利は、2月までの急激なドル高コロン安傾向を受け、3月の民間銀行による金利は前月から1ポイント以上上昇し18.48%を記録したが、3月以降の為替の安定傾向を受け、3月から4月にかけては1.68ポイント下降し16.80%と、1月時点(16.63%)とほぼ同値となっている。国立銀行の同指標は2月以降微かな上昇傾向を見せている。

6 外貨準備高
- 3月末、4月末時点の米ドル準備高(表12)はそれぞれ6,785.6百万ドル、7,768.8百万ドルとなった。
- 4月の10億米ドル規模のユーロ債の発行により、同月に急激な準備高増が記録された。当面は急速な輸出額の増大も見込まれていないことから、今後は外貨準備高の値は大きな増加をみせず、前年同様の減少傾向を示していくと考えられる。

7 主な出来事(3・4月)
(1)国内経済
ア 財政関係
- 投資家はコスタリカの発行したユーロ債の利子上昇を求めている(4/2)
2012年に国会で承認された全4回のユーロ債発行のうちの3回目が実施され、政府は新たに10億米ドルにのぼる外貨資金を獲得した。同債務は、年率7%の利子で今後30年(2043年まで)かけて返済される予定となっている。今回の利子が前回の5.63%より上昇したことについて専門家は、昨年9月にムーディーズの格付けによってコスタリカの債務状況がネガティブな評価を受けたことが一因であるとしている。 - エリオ・ファジャス次期財務大臣インタビュー(4/15)
2014年にはGDPの6%に到達しうる財政赤字への対処は喫緊の課題であるとし、最初の1年間で財政赤字額を前年から1%削減するために財政支出の削減と脱税の撲滅に努めていくと述べた。また、売上税から付加価値税への移行や、所得税制の変更などにも言及した。
イ 為替
- オリビエル・カストロ次期中央銀行総裁インタビュー(4/15)
為替相場の安定のためにクローリング・バンド制を当面継続していくことと、その上下限値や幅を変更する可能性があることに言及した。また、外為市場(Monex)において1,000ドル以下の少額参加者を排除することでそれらの為替への影響力をなくしていく方針を示した他、インフレ・ターゲットの維持や中銀による為替へ積極介入等の方針についても言及した。 - ドル高がガソリン・自動車・インターネット等の料金に影響(3/3)
年始からの急速なドル高が、ガソリン、自動車、インターネット料金の値上げを招いている。この傾向が持続すれば、その他の公共サービス料金(水・電気・タクシー等)も、次回の料金改定時に値上がりする可能性がある。公共サービス調整庁(Aresep)は燃料料金の値上げ措置を検討中である。中銀はドル高によるインフレを抑える対策が整っているとしつつも、現在の現象を一時的なものと判断している間は特に問題視しない意向を示し、引き続き3~5%のインフレ・ターゲットも維持していくことを表明している。
ウ 雇用関連
- インテル社は経営戦略を転換し、生産部門をアジアに移設(4/5)
インテル社はベレン工場の生産部門(1500人)を削減する予定である。生産部門撤退後も、国内のエンジニア部門・デザイン部門・グローバルサービス部門は存続され、これらの部門においては現状の1,200人の人員から200人増加させる予定である。今回の再編成は、これまでパソコン部品生産が中心だったインテルの社の経営が、近年のスマートフォンなどのタブレット機器産業の台頭により悪化したことが主な要因とされている。インテル社は97年のコスタリカ進出以降、国内製造業を支えてきた企業であり、輸出額の20%以上を同社製品が占める時代もあった。近年はコスタリカもインテル依存から脱却するために、外国直接投資(FDI)の対象となる産業の多様化を図ってきたが、それでも依然としてインテルの比重は大きいままだった。 - インテル社、生産部門の撤退を正式発表(4/9)
8日、インテル社は、2014年中の国内工場の生産部門の廃止を公式に発表した。同社のコスタリカ代表マイク・フォレスト氏は、今回の変化はあくまでもグローバルな再編成の一部に過ぎないと述べ、コスタリカの競争力低下 (水や電気料金の上昇)が理由ではないとしている。今回の削減対象となる生産および実験部門のエンジニアには、補償金と転職への支援が提供される予定になっている。 - バンク・オブ・アメリカの撤退(4/9)
8日、バンク・オブ・アメリカは今後9-12ヶ月の間に国内のオペレーション部門と技術部門を削減していくという声明を公式に発表した。同時に今回の削減対象者への転職支援を行っていくことも明言した。コスタリカ投資振興機構(CINDE)は今回1,500人近くが整理対象となると見込んでおり、また同銀行の発表がインテル社の生産部門撤退の発表と重なったことはコスタリカにとって大きな打撃であるとしている。
(2) 対外経済
ア 自由貿易協定(FTA)・貿易関係
- コロンビアとのFTA締結が国会で承認(4/25)
前日、コロンビアとの自由貿易協定(FTA)締結が国会において最終審議にかけられ、可決した。あとはコロンビアにおける国会承認を待つのみとなる。同協定交渉開始当初、コロンビア側がFTA内で例外産業を設けないという提案をし、これに対しコスタリカ産業界には懸念が広がった。しかし、最終的には交渉された商品の約70%が関税撤廃の対象となり、同時に乳製品・肉・ビールなどの対象外商品も規定された。貿易省の調べによると、2003年から2013年にかけてのコスタリカからコロンビアへの輸出額は、平均して年率10.1%の増加を記録し、輸入についても同様に4.3%増を記録している。
イ コスタリカのFDI伸び率は他の中米諸国との比較において鈍化
- コスタリカのFDI伸び率は他の中米諸国との比較において鈍化(4/7)
コスタリカの外国直接投資(FDI)額の伸び率が鈍化している。コスタリカのFDI額は依然として中米地域ではトップクラスだが、伸び率に関しては、近年エルサルバドルやグアテマラを下回っている。コスタリカがこれまで投資を呼び込んできた製造業などが近隣諸国でも成長してきており、さらにこれらの国々では国内での企業活動開始手続きが簡略化が進んでいることもあり、今後の中米における投資先としてのコスタリカの立場は安泰とはいえない。
ウ その他
- コスタリカ石油精製公社は精油所近代化プロジェクトの正当化に再び失敗(4/26)
会計検査院(CGR)は、コスタリカ石油精製公社(RECOPE)と中国国有石油会社(CNPC)が合弁で経営するSORESCOによって進められているにモイン精油所近代化プロジェクトのフィージビリティ・スタディを示した報告書を棄却し、無効化を命じた。会計検査院は昨年6月にも同様の理由で同プロジェクトの無効化を命じている。RECOPEはこの8月にも新たな報告を準備する予定で、それに26.5万ドルの経費がかかる見込みである。また、RECOPEとCNPC間には、SORESCOが負担している中国から派遣された従業員の経費支払い責任を巡る問題も存在している。本件に関し、ソリス次期政権は現在まで明確な方針を示していない。 - 中国は経済特区の中心地としてプンタレナスを推奨(4/29)
チンチージャ政権が2035年の完成を目指す中国経済特区建設の候補地として、プンタレナス、グアナカステ、リモン、サンカルロス、カルタゴなどがあがっている。そのなかでも産業資源の輸送や国際的なアクセスシビリティの条件などからプンタレナスが最有力地となっている。同経済特区の他に、各地に産業パークを建設して連携させていくことを理想に掲げている。ゴンサレス貿易大臣は、シンガポールが達成してきたような経済・産業発展をコスタリカでも実現したいと述べ、モラ次期貿易大臣も今後関係資料の精査が必要としながらも、同プロジェクトが国内の開発が遅れた地域の発展につながることに期待していると述べている。