コスタリカ経済 定期報告(2014年5・6月)
※出典:コスタリカ中央銀行、財務省、貿易促進機構(PROCOMER)(5-6月分数値)
主な出来事については当地新聞記事(1)及び貿易省プレスリリースによる。
主な出来事については当地新聞記事(1)及び貿易省プレスリリースによる。
1 経済活動指標
- 4月から引き続き、運輸・倉庫・通信、金融・保険、金融仲介サービス等のサービス産業及び農林漁業、建設業において昨年を上回る成長率が見られた。特に農林漁業は両月で前年同期の値を6ポイント以上上回り、約7%の成長率を記録している。特にパイナップルやバナナなど果物の輸出増加が成長の牽引役となっている。
- 製造業に関しては、5月に昨年度の成長率2.31%から若干の上昇(2.58%)がみられたものの、6月には前年同期の値を3ポイント以上下回る1.80%を記録した。その主な要因として、5月末にインテル社による段階的生産活動縮小の開始があげられている。
- 全体の指標は、5月に4.40%(前年比2.6ポイント増)、製造業の成長率の低下が顕著だった6月も3.60%(前年比0.1ポイント増)を記録し、製造業中心のフリーゾーンを除いた場合では両月で前年同期の値を2ポイント以上上回った(各4.38%、5.28%)。これらの数値から、現在のコスタリカ経済において、前述のサービス関連産業や農林漁業の比重が増していることがうかがえる。

2 貿易
- 5月の輸入額(表2)は各1,535百万ドル(前年比プラス3.2%)、同輸出額(表2)は1,045.3百万ドル(前年比プラス1.1%)となった。
- 6月の輸入額(表2)は1431.4百万ドル(前年比プラス2.5%)となり、同輸出額(表2)は980.5百万ドル(前年比プラス2.5%)となった。
- 累積額に関しては、輸入額が5・6月時点(表3)で各7,541.71百万ドル(前年比▲3.9%)、8,973.1百万ドル(前年比1%増)となった。同輸出額(表4)は各4,894.2百万ドル、5,874.4百万ドル(ともに前年とほぼ同値)を記録し、貿易赤字額は5月に2,647.5百万ドル(前年比▲10%)、6月に3,098.7百万ドル(前年比2.4%増)となった。
- 輸出額の前年同期からの伸び悩みの要因として、4月に発表されたインテル社の製造部門撤退の第一段階が5月末に実施されたことがあげられており、実際に6月の電子関連部品の輸出額は前年同期の281.6百万ドルを約18.5%近く下回る229.7百万ドルとなった。他方で、生命科学・医療器具の輸出額に関しては前年からの増加が顕著であり、5月に151.7百万ドル(前年比26.6%増)、6月に160.5万ドル(前年比19.5%増)を記録した。
- 貿易推移(表5)に関して、5・6月の輸入額成長率が昨年同期値と比較して顕著な減少(前年から各2.9ポイント、1.8ポイント減)を記録し、ドル高に伴う輸入品需要の縮小がうかがえる。




3 財政収支
- 5月までの財政収支(表6)は、歳入が前年比約7.7%増(前年同値9.9%)の約1兆4,615億コロン、歳出が前年比約8.7%増(前年同値13.1%)の約2兆416億コロンとなり、財政赤字額は前年比約11.1%増の約5,800億コロンとなった。財政赤字の対GDP比は前年から0.1ポイント増の2.2%となっている。
- 6月までの財政収支(表7)は、歳入が前年比約8.4%増の約1兆8,073億コロン、歳出が前年比約11.7%増の約2兆5069億コロンとなり、財政赤字額は前年比約増の6,995億コロンとなった。財政赤字額は前年から0.4ポイント増の2.6%となっている。
- 5月の財政赤字額対GDP比は昨年とほぼ同値(2.2%)となったが、6月は前年を0.4ポイント上回る2.6%を記録し、年間で5.0%を超えるペースとなっている。
- エリオ・ファジャス新財務大臣は新政権の目標として、所得税体系や売上税から付加価値税への移行等の税制改革、納税手続きの厳正化などにより、2015年に財政赤字額の対GDP比を2013年の値から1%減少させ、2016年には基礎的財政収支(プライマリーバランス)の赤字を解消することを掲げている。


4 物価上昇率
- 4月から5月にかけての物価上昇率(表8)は前年同期の値(0.02%)を大きく上回る0.55%となり、5月時点での累計値では前年同値を0.53ポイント上回る3.75%となった。
- 5月から6月にかけての物価上昇率は前年同期の値(0.02%)を大きく上回る0.39%となり、6月時点での累計値では前年同値を0.90ポイント上回る4.14%となった。
- 6月時点の消費者物価指数年率換算値(表9)は4.59%を記録した。中銀は7月31日までに2014-2015年マクロ経済プログラムの修正報告書を提出することになっており、現行のインフレ・ターゲット(3-5%)に修正が加えられるかに注目が集まっている。


5 為替・金利
(1) 為替レート
- 対米ドル為替レート(表9)は、4月から5月にかけてドル高への変動が弱まり、月末値は4月の1ドル=554.9コロンから5月は556コロンとなった。
- 5月下旬に新政権初のドル売りによる為替介入が見られたものの、以降は為替が安定し、5月から6月にかけては年始以降初のドル安傾向が見られ、月末値は5月の1ドル=556コロンから、6月には1ドル=543.5コロンとなった。
- 5月から6月のドル安傾向は4月に実施した10億米ドル規模のユーロ債発行により、為替を安定させるのに十分な外貨を獲得できたためと思われる。
- オリビエル・カストロ新中銀総裁は、7月31日までに提出予定の2014-2015年マクロ経済プログラムの修正報告書において、今後の為替制度のあり方(クローリング・バンド制維持のうえでの上下限値の修正か、自由変動制移行か)について、方向性を示すことになっている。

(2) 金利
- 5月・6月の基本金利(表11)は4月の値(6.70%)から上昇し、それぞれ6.85%、6.95%となった。4月から5月に中銀によって実施された基本金利の1ポイント以上の上昇は、物価上昇による実質金利の低下に伴い、資金の投機的利用を抑制するための措置である。
- ドル建て貸付金利は、6月に国立銀行でこの1年間で最も高い数値(11.12)を記録した。民間銀行では、5月以降低下傾向が続き、6月時点では9.64%となっている。
- コロン建て貸付金利は、2月までの急激なドル高コロン安傾向が収束の気配を見せ、コロン建て貸付に伴うリスクが小さくなったことから、民間銀行ではピークの3月(18.48%)から低下傾向が見られる。6月時点では同値が15.47%となり、最大3.4ポイント以上上回っていた国立銀行との金利差が6月に逆転し、現在国立銀行のコロン金利の法が約0.3ポイント上回っている。
- 5月から6月にかけての国立銀行による両通貨の貸付金利の上昇は、流通通貨量を減らし、購買活動を抑制することでインフレを抑えることをねらった措置である。

6 外貨準備高
- 5月及び6月末時点の米ドル準備高(表12)は各7,704.5百万ドル、7,4940百万ドルとなった。
- 当面はインテル社の生産部門撤退などを要因とした輸出額の伸び悩みにより、顕著な外貨獲得量の増加が見込まれないことから、外貨準備高は昨年よりも早いペースで減少することが予想される。

7 主な出来事(5・6月)
(1)国内経済
ア 財政
- 財務省 財政赤字対策を発表(6/5)
財務省はこの1年間で実行する予定の55の具体的アクションを発表し、そこには脱税対策、税制改革、空席となっている2,500の公務員ポストの凍結、公務員給与体系の見直し、年金制度改革などが含まれている。財務省は今後2年間、前述のアクション実行に努め、この期間の実績を元に、2016年までには基礎的財政収支(プライマリーバランス)の赤字の解消を目指している。
イ 為替
- 新政権による為替介入実施(5/22,6/7)
5月19-21日にかけて、米ドル価格が4.84コロン上昇し、1ドル558.6コロンとなった。為替の安定を見込んでいた市場の動揺を沈静化させるため、カストロ中銀総裁は新政権初の為替介入として、1,070万ドルを市場で売った。同様に5月末から6月上旬にかけても、ドル高を抑えるために総額7、890万ドルを売り、その結果、米ドル価格に大きな変化は生じなかった。専門家の一部は、今回の中銀の動きを為替の固定相場制への方針転換とみなしているが、カストロ中銀総裁はあくまでも過剰な為替変動を抑えるための措置だったとし、これを否定している。 - 中銀はクローリング・バンド制の調整を検討(5/22)
カストロ中銀総裁は現行のクローリング・バンド制で定められている為替変動幅の再検討中であることを明らかにした。また、将来的には他の為替制度へ移行する可能性もあることを示唆した。この新政権の為替政策に対し、ボラ-ニョス前中銀総裁は、クローリング・バンドの上限値と下限値の幅を縮小させることは、為替の自由変動制への移行を目指したここ数年の動きに逆行するとの懸念を示している。今後、銀行及び金融機関協会は、本件に関して中銀との協議の場を毎月設けることになっている。
ウ 金融政策
- 中銀はインフレ・ターゲット修正を検討(5/6,5/26)
中銀が7月末に提出を予定している「2014-2015年マクロ経済プログラム修正報告書」において、現行のインフレ・ターゲット(3-5%)と経済成長目標率(3.8%)の修正がなされるかに注目が集まっている。専門家の間でも、今年の下半期に現在のインフレターゲット(3-5%)を維持するか否かで意見が分かれている。ドル高による燃料や電気料金の高騰により4月の月別の消費者物価指数は、過去10年で最も高い上昇率(1.14%)を記録し、年始からの4ヶ月間の累積上昇率は3.20%となっている。 - 開発のための金融政策(6/3,6/4,6/6,6/10,6/27)
中小企業への融資拡大を目的とし、前政権時代から国会で議論されてきた「開発のための金融政策(SBD)」の第二回目採決は8月以降に持ち越される可能性が出てきた。多くの政党が今国会の優先事項の一つとして、同制度の改正案可決を掲げていたが、オット・ゲバラ議員率いる自由運動党が同制度の法的能力や運営権の不明確さを指摘し反対をしていたために協議は難航していた。しかし6月3日に同党が、第四法廷が同法案の欠陥を指摘した場合に迅速な措置が執られるという前提のもと、採決に応じる姿勢に転じ、第一回目の採決が実施される運びとなっていた。しかし、国会のテクニカル・サービス局が、同法案について関連機関とのさらなる協議を求めことにより、さらなる審議が課せられた。26日には国会に於いて第一回目の採決がなされ、今後第四法廷に一連の文書が送られることになったが、手続きには通常1ヶ月を要し、違憲性が指摘された場合には再審議が課せられるため、それらを考慮すると第二回目採決までにはさらに時間を要する可能性がある。
エ その他
- INEC(国家統計局)による「収入と支出に関するアンケート調査」結果(5/1)
INEC(国家統計局)の調べによると、2004年から2013年の10年間に、コスタリカ国内の一家庭あたりの収入額が約14%増加した一方で、支出額はそれ以上に増加したことが明らかになった。この間に顕著な増加がみられたのは教育費、各種サービス料金、交通費などで、これにより国民は収入増加を実感できてない。また、国民間の経済格差の度合を示すジニ係数も、2004年の0.5448から2013年の0.5341と大きく変化はせず、収入額上位2割の層の平均所得(200万コロン)と、下位2割の層のそれ(22.5万コロン)とは約9倍の差があることも明らかになった。また、一家庭あたりの収入は、都市部と地方で倍近く異なり、次期政権にとって富の再分配が課題となる。
(2) 対外経済
ア 自由貿易協定・貿易
- コスタリカ、太平洋同盟加盟条件を再検討(6/16)
モラ貿易大臣は、6月19-20日にかけてメキシコで開催される同同盟第9回会合の場で、関係国の代表者に今後のコスタリカの加盟に向けたプロセスについて説明をする予定となっている。政権内では、フェリペ・アラウス農牧大臣が、太平洋同盟加盟により現行のFTAで規定されている条件が変更することで製造業や農業などの国内産業に負の影響が及ぶことを懸念し、加盟に反対姿勢を示している。モラ貿易大臣は、加盟交渉を進めながら国内産業の保護を図っていくとし、加盟プロセスが予定通りに進まなかった場合の最終的判断は大統領に委ねるとしている。
イ 外国直接投資
- FDI(外国直接投資)の増加が顕著(5/30)
国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)の調べによると、2013年にコスタリカはラテンアメリカ・カリブ地域で最もFDIが増加した国の1つであることが明らかとなった。同地域の平均が5%増だったのに対し、コスタリカは15%増を記録した。また、従来は製造業が主な投資対象だったのが、近年は保険・通信などのサービス業や、不動産業への投資が増加していることも判明した。他方で、同委員会からは今後の今後のコスタリカの課題として、外資と国内企業の連携強化および調査研究や開発への投資額増加の2点が指摘されている。 - インテル社 コスタリカに大規模研究施設を設置(6/11)
ソリス大統領は米国訪問中にインテル社幹部と会談し、将来コスタリカ国内で製品開発のための同社の大規模研究施設を設置し、新たに100人の雇用を創出することで同意に至った。同研究施設は、現在国内で稼働中のデザイン部門や・エンジニアリング部門・サービスセンターとも連携していく予定となっている。インテル社にとっては米国外で初の大規模研究施設設置となり、2015年末までは既存の国内従業員と合わせた総従業員数は1,500人規模になる見込である。ソリス大統領は今回の決定を「歴史的快挙」称し、コスタリカはグローバルな生産活動において新たな段階に入ったと述べ、今後も人材の質を上げていくためにあらゆる手段を講じていくことを誓った。
ウ その他
- OECD調査団 コスタリカ訪問(6/4)
6月2日から3日にかけ、OECDミッションがコスタリカを訪問し、ソリス大統領を初め財務省や貿易省といった関係省庁の代表者ら、今後のコスタリカの加盟プロセスについて協議した。協議終了後、ソリス大統領は、OECD加盟は国民に大きな利益をもたらすとし、加盟に向けた努力を継続していくと述べた。また、モラ貿易大臣も、今回の協議で不明点が言及されたことにより、加盟に向けた道筋が整ったとの見方を示した。OECDミッションも、コスタリカの加盟が同組織及びコスタリカ双方にとって重要な意味を持つことを確認できたとして、今回の訪問で得られた成果に満足の意を表明した。