コスタリカ経済・投資環境概略(2014年)
1.基本情報(2014年)
- GDP(名目)49,552.6米ドル
- 1人あたりGNI (国民総所得)10,381.6米ドル
- 2015年度国家予算 約7.9兆コロン(※約14,629百万ドル)
- 歳入 3.799,980百万コロン(約7,100百万ドル)
- 歳出 5.326,978百万コロン(約9,956百万ドル)
- 輸出額 1,1251.9百万ドル
- 輸入額 1,7186.2百万ドル
- 為替 1米ドル=約536.7コロン(2015年9月末時点)
※予算案成立時2014年12月1日のレートから換算
(出典:コスタリカ中央銀行HP)
2.国内経済
かつては、主にバナナやコーヒーなどの農業産品の輸出に依存する経済であったが、90年代より外資誘致による貿易推進のモデルが確立されている。国内経済の大半を製造業、農牧畜産業、サービス業が占めているが、近年は国内労働力の高水準化を背景に、特にサービス業の比重が増えている。
(1)農業・畜産業・酪農
農業に関しては、近年パイナップルの生産が急激に伸びており、2014年の輸出額は長らく農産品輸出額の中で最大だったバナナに迫る勢いを見せた(図1)。数年内でパイナップルの輸出額がバナナを上回る可能性が高い。また、従来からコーヒー生産も盛んであり、特に「フェアトレード」、「オーガニック」、「カーボンニュートラル」といった高付加価値コーヒーの生産に重点が置かれている。近年はこれまで主要な貿易相手国ではなかったアジア、東欧などへの主要作物の輸出拡大を試みている。精肉や乳製品の輸出も、中南米市場を中心に盛んである。
(2)製造業
国内製造業に関しては、1997年にインテル社がコスタリカに進出し、半導体製造工場を開設以降、同社主力製品の集積回路の売上額が一時期国内GDP比6%前後、輸出額における割合も同20%前後を維持してきたが、2014年4月に同社はコスタリカにおける生産中止と年内の工場閉鎖を発表した。インテル社の集積回路に依存する部分が大きかったコスタリカ経済は、その穴埋めを図るべく、その他のハイテク産業や農業を中心に輸出額の増大を図っている。その中でも有望なのが、人工バイパス、義肢、カテーテルなどの医療器具の生産を中心とした生命科学産業であり、2014年には同産業の輸出額が初めて集積回路を上回った(図1)。

(3)サービス業
北米との時差が小さいこと、高度な技術と語学力を有した人材が豊富なことなどから、各国の有力企業がオペレーションセンターやコールセンターをコスタリカに設置している。当国進出日系企業としては、マネックスグループ傘下のTrade Stationとブリヂストンの金融サービス部門等が事業を展開している。 サービス業の中では、観光業も国内重要産業の1つに位置づけられており、2014年はコスタリカへの外国人訪問者数が252.7万人(前年比4%増)、また、 観光による外貨獲得額も26億3,600万ドル(前年比8.3%増)を記録した。アメリカ大陸及び欧州からの観光客が大半(図2)を占めている。

3.国家財政
財政状況は2009年の世界不況時にプライマリーバランスが赤字化して以来、赤字傾向が続いている。特に、高額な公務員給与が度々取り沙汰されているほか、税制改革の必要性が議論されている。
2014年5月に誕生したソリス政権は、歳出削減と税制改革による財政健全化を標榜していた。そのため、同政権は現在、現状13%の売上税から同率の付加価値税への移行(政府案では2015年は税率13%1年ごとに1%ずつ税率を上げ、2017年までに15%とする予定)と所得・法人税体系の変更を目指しており、今後議会や国民からの理解を求めていく意向を示している。
4.対外経済
(1)貿易
2015年9月時点で,7カ国と二国間自由貿易協定(カナダ、メキシコ、パナマ、チリ、ペルー、中国、シンガポール)、4つの地域共同体(米国・中米・ドミニカ共和国(CAFTA-DR)、カリブ共同体(CARRICOM)、欧州連合(EU)及び欧州自由貿易連合(EFTA))との間で自由貿易協定発効済み。直近では2015年6月に対コロンビア二国間自由貿易協定がコロンビア国会で承認され、2015年中に発効する可能性がある。また、中米・韓国自由貿易協定についても2015年9月に開始された。
チンチージャ前政権時代に自由貿易が推進された一方で、2014年5月に就任したソリス政権は新たな協定締結には慎重な姿勢をみせており、また、前政権時代に乱立した協定の綿密なフォローアップの必要性も訴えている。ただし、現政権は常にFTAに消極的というわけではなく、太平洋同盟への加盟(2015年6月時点加盟国:メキシコ、コロンビア、ペルー、チリ)や中米・韓国自由貿易協定の締結については前政権から引き続き交渉を進めている。しかしながら、コメ、砂糖、コーヒー等の農産品が自由貿易の対象外に指定されるケースも多く、FTAよりもさらに深化した自由貿易を目指す太平洋同盟への加盟については国内の農牧畜業者から懸念の声が上がっている。
(2)海外直接投資(FDI)
2014年のコスタリカへの海外直接投資(FDI)は2、105.9百万ドルを記録した。そのうち、米国からの投資額が約半分にあたる1、004百万ドルとなっており、地域別では北米(61%)、欧州(18.5%)、中米(10.4%)、南米(7.8%)となっている(図3)。日本からコスタリカへの2000年-2014年の累積投資額は17.3百万ドルとなっており、東アジアのプレゼンスは小さい。
90年代以降のFDIの増加(図4)は、同時期に活発化したフリーゾーン設置などによる企業誘致政策に因る部分が大きい。コスタリカでは、90年に国内でのフリーゾーン関連法が制定され、投資額や雇用に関して一定条件を満たした企業に一定の免税及び減税期間が設けられることにより、サンホセ周辺への企業誘致が進んだ。現在では、これまで産業の発達が見られなかった地方部での設置計画も複数上がっている。
2014年9月、米国格付け会社ムーディーズにより、投資先としてのコスタリカの信用度がそれまでのBaa3から Ba1へ引き下げることが発表された。今国債金利の上昇や、国内金融機関による貸付金利の上昇などが予測され、それらがコスタリカ経済発展の足枷となる可能性がある。


●二国間投資協定締結国(2015年9月時点)
カナダ、ベネズエラ、チリ、パラグアイ、アルゼンチン、スペイン、フランス、ドイツ、オランダ、スイス、チェコ、台湾、韓国、カタール(計14カ国)。
5.対日経済
(1)日系企業の進出
コスタリカに進出している主な日系企業はパナソニック、ブリヂストン、ソニー、東芝、エプソン、豊田通商、テルモ(マイクロベンション)、マネックス・グループ(Trade Station)等があげられる。また邦人の起業による旅行代理店、日本料理レストラン、自動車部品取扱企業なども複数存在する。近年ではマネックス・グループ資本のTradeStation社のソフト開発拠点(2012年)、テルモ社資本によるマイクロ・ベンション社の医療機器生産工場(2013年)、米国東芝情報システムズ社の事務所(2014年)などが開設されている。
(2)対日貿易
- 対日輸出額 93.4百万ドル(2014年)
- 対日本輸入額 475.3百万ドル(2014年)
- 日本への主な輸出品(2014年):電子回路関連製品、コーヒーなど。
- 日本からの主な輸入品(2014年):※乗用車、家電など。
※乗用車に関しては、2014年の新車販売台数上位5メーカーに、トヨタ(1位シェア19.3%)、日産(3位、シェア10.1%)、スズキ(4位、シェア10.0%)の日本企業3社が入っており、同年の新車市場の約55%を日本車が占めた。
6.インフラ
(1)道路
幹線道路は首都サンホセを中心に整備されており、主要なものとしては首都から太平洋岸地域にへつながる国道27号線、カリブ海地域へと伸びる国道32号線、空港及びフアンサンタマリア国内北東部へと向かう国道1号線(パンアメリカンハイウェイ)などがある。主要幹線道路は老朽化が著しく、雨期には土砂崩れ被害も多発。また、近年はモータリゼーション化による都市部の渋滞が深刻化している。インフラの改善はコスタリカの主要課題の一つである。国道32号線に関しては中国からの借款による拡幅工事が計画されている。
(2)空路
国際空港は首都サンホセと、太平洋岸北西部のグアナカステ県に位置するリベリアにあり、その他に全国各地に30以上の地方空港が点在している。
●フアン・サンタマリア国際空港(サンホセ)
20以上の航空会社が毎週15カ国(カナダ、米国、メキシコ、グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドル、ニカラグア、パナマ、キューバ、ドミニカ共和国、コロンビア、ペルー、チリ、スペイン、ドイツ)へ旅客便を運航している(2015年9月末時点)。
※チリ(サンティアゴ)への便はペルーで、ドイツ(フランクフルト)への便はドミニカ共和国でそれぞれ短時間の経由が含まれる。2016年4月にはサンホセ-ロンドン(Gatwik)の直行便の就航が予定されている(2015年9月末時点)。
●ダニエル・オドゥベール国際空港(リベリア)では4カ国(カナダ、米国、エルサルバドル、パナマ)への旅客便を運行している(2015年9月末時点)。
(3)港湾
国際貨物の発着地として太平洋側にカルデラ港、カリブ海側にモイン港及びリモン港がある。
●カルデラ港
サンホセより西78kmに位置し、主に穀物輸送や対アジア貿易の拠点となっている。日本車の大部分は同港で荷下ろしされている。2006年からコロンビアとコスタリカによる合弁会社La Sociedad Portuaria de Caldera y Sociedad Portuaria Granelera de Calderaへのコンセッションにより運営され、依頼作業の効率化が著しい。同港では、今後の対アジア貿易の拡大を見据えた拡張工事が2014年に終了し、取扱可能な貨物量が倍増した。
●モイン港・リモン港
サンホセより北東153km、両港間は約6km。カリブ海側に位置する両港は北米や欧州諸国との間で貿易される物資の集積地である。モイン港は国内最大の商業港であり、2014年1月にオランダ資本のAPMTerminals社によるメガポート建設が開始された。同港の完成により、1万を超えるコンテナを積載可能なポスト・パナマックス船の寄港が可能となる見込みである。
(4)鉄道
サンホセ中心部から郊外に伸びる4路線が鉄道公社(INCOFER)によって運行されている。全路線が単線で、平日の朝夕の通勤時間帯のみの運行となっている。現在、サンホセ市内から北西部のエレディア方面へと伸びる路線の電化工事が予定されている。