2012年のコスタリカ内政・外交情勢
(1月~3月)
【要旨】
(内政)
(外交)
I.内政
1.財政改革
- (1) 財政改革法案の国会一次審議通過
3月14日、国会本会議において「税のための連帯法案」の第一次採択が行われ、賛成31人、反対19人で可決された。賛成したのは与党国民解放党(PLN)の22議員、市民行動党(PAC)の8議員及びアベンダニョ議員(国家復興党)で、反対したのは自由運動党(ML)8議員、キリスト教社会統一党(PUSC)4議員、排除無き参画党(PASE)4議員、ビジャルタ広域戦線議員に加え、PACのメンドサ国会議長及びムニョス議員も反対に回った。その他の議員は欠席した。今後は、フィッシュマン議員(PUSC)が最高裁憲法法廷に提出した法案の「迅速審議」に関する違憲審査について、憲法法廷が判断を下すまでは審議は一旦中断される。カルサダ同法廷裁判長は、この判断を下すには最大18ヶ月かかる可能性もあるとしている。
- (2) 財政改革法案に対する最高裁の合憲判断
フィッシュマン議員(キリスト教社会統一党:PUSC)が2011年12月に、「税のための連帯法案」審議のプロセスとして採用された迅速審議が違憲であると主張し、第四法廷に違憲審査を求めていたが、3月27日、第四法廷は同議員の訴えを却下し、審議プロセスは合憲との判断を下した。これに関してチンチージャ大統領はツイッターを通して「議会の妨害に対する勝利である。」とのコメントを出した。当初は第四法廷の判断が出るまでに一年以上かかるとの予測もあっただけに、早期の判断が下されたことに対して野党側は驚きを見せている。
フィッシュマン議員の「違憲審査」は却下されたが、第四法廷には同法案に関する別の「合憲審査」(※)も提出されている。この審査の期限は30日間なので、4月後半には判断が下される予定になっており、この後国会で第二審議に入り、法案の成立が見込まれている。
※第四法廷が扱う違憲審査には、あらゆる市民が法律や行為に関して訴えることができる「違憲審査」と、国会で審議される法案の第一審議終了後に法案内容について国会議員等が訴える「合憲審査」の二種類がある。今回却下されたフィッシュマン議員の訴えは前者にあたり、第四法廷の審議期間は無期限。後者の「合憲審査」は、提出から30日以内に第四法廷が判断を下さなければならない。
2. 閣僚・国会議員の辞任
- (1) スポーツ大臣の辞任
1月10日、トッド・スポーツ大臣は、子供のガン患者の基金を募るためのチャリティー・イベントで、2,130枚の入場券の無料配布を強要した問題の責任を取って同職を辞任した。同イベントは、1月7日に国立スタジアムで実施されたサッカーの試合で行われ、子供ガン患者基金によれば、右2,130枚の入場券の無料配布により、10,650,000コロン(右米貨約21,300ドル)の資金が損失した由。チンチージャ大統領は、「トッド大臣の辞任について、トッド大臣の行動は明確で透明性があり、悪意はなかったと思う、ただ同大臣は本件についてもっと前に公表するべきで、今回の辞任は妥当であろう、本件については報告書で説明してもらいたい」旨述べ、また、「同大臣がとった国立スタジアムで実施される全てのイベントに、スポーツ省が2,130枚の入場券を招待配布するというシステムを中止させるべきで、更に、ペラサ会長が3,000名の招待配布入場券を要求した事実は、不明確なので、右について調査すべきである」旨述べた。
スポーツ大臣の後任は未定で、暫定的にベナビデス大統領府大臣が務めている。チンチージャ政権になってから2年足らずで、今回のトッド大臣を含め既に3人のスポーツ大臣が交代している。
- (2) 国家計画・経済政策大臣及び広報大臣の交代
3月1日、チンチージャ大統領は記者会見を開き、ラウラ・アルファロ国家計画・経済政策大臣が、ハーバード大学の教授職に戻るために大臣を辞任する旨発表した。アルファロ大臣は、ハーバード大学の教授職は2年間離れるとその資格を失うが、その時期が近づいているため今回決断したと説明した。またこれに伴い大統領は、国家計画・経済政策大臣の後任にはロベルト・ガジャルド広報大臣が、広報大臣の後任にはフランシスコ・チャコン議員が就任することを発表した。チャコン議員は議員職を辞するため、同議員の選挙区であるサンホセ地区における与党国民解放党(PLN)比例名簿次点であったカロリナ・デルガド全国生産理事会農業発展副委員長が議員職に就任する。いずれの就任も3月15日付となる。
なお、チンチージャ政権発足以来、大臣の交代は今回を含めて10人に上る。
- (3) 与党有力議員の辞任
  3月13日、与党PLNのビビアナ・マルティン議員が、AVIANCA-TACA航空の渉外担当部長(メキシコ・中米・カリブ担当)に就任するためとして、3月23日付で議員辞職する旨発表した。
同議員はチンチージャ大統領の信頼が特に厚い議員の一人であり、2010年選挙の際に大統領が直接選んだ4人の所謂「全国区議員」の一人で、政権一年目にはPLNの会派長を務め、現在は政権が重視する新交通法を手がける交通委員長を務めている。
右「全国区」議員は、政権の国会対応を円滑化するための大統領の信頼を得た議員であるが、既にマルティン議員に加え、ギジェルモ・スニガ及びフランシスコ・チャコン両議員が辞職しているため、残るはアリシア・フォルニエル議員のみとなり、大統領にとって国会運営が益々厳しくなることが予想される。
同議員の後任には、サンホセ選挙区でPLNリストの次点であったホルヘ・アルトゥーロ・ロハス元青年会議所長が就任することになる。
3. その他
- (1) フィゲーレス元大統領の国会証人喚問
2月16日、フィゲーレス元大統領は、国会の要請に応じて歳入歳出委員会に出頭し、3時間に渡って国会議員の質問に答えた。ALCATEL社とコスタリカ電力公社(ICE)との携帯電話網設置契約の見返りとして、ALCATEL社が別の会社を迂回して献金約90万ドルをフィゲーレス元大統領に渡したとの疑惑について、同元大統領は従来通り違法性を否定した。
同元大統領は、「本件について検察が世界中を捜査し、我々の口座も調べ尽くしたが、違法性を立証する証拠は一切見つからなかった。これは私ではなくダラネセ(当時の検事総長)が言っていることだ。」として、本件はプレスと政治的陰謀が作り上げたものと批判した。
- (2) 公務員によるスト
政府は2012年度前半の公務員給与引き上げ額を一人あたり5,000コロン(約10ドル)と定めた。これに対して教員を中心とした公務員組合が、物価上昇に対応するには引き上げ額が不十分と主張し、2月15日、更なる引き上げ等を要求して全国的なデモ及びストを展開した。サンホセでは、数千人がデモに参加して大統領府まで行進し、チンチージャ大統領との会合を要求した。また、全国の教員が一斉にストを行ったために全国の9割近くの学校が休校となった他、その他の公務員もストに加わったことでモイン港及びリモン港の埠頭が閉鎖され、上下水道公社(AyA)やコスタリカ電力公社(ICE)のサービスの一部も影響を受けた。
公務員組合はデモやストにおいて、給与引き上げの他に、財政改革法案や公務員の統一給与法案等への反対も掲げた。
2月20日、チンチージャ大統領は事態を収拾するため、公務員組合代表者と大統領府において6時間超にわたる会合を持った。この結果、組合側は給与引き上げ額について、政府が定めた5,000コロンを受け入れた一方、政府側は2012年度後半の給与引き上げ算出方法の変更を検討することや、今回のストに参加した公務員に罰則を与えないこと等につき組合側の要求を受け入れ、双方が合意に達した。
- (3) CID Gallup社による世論調査
CID Gallu社が1月9日~16日の間に実施した世論調査結果を発表した。
ア.チンチージャ政権の評価
- とても良い・良い:29%
- 悪い・とても悪い:33%
- 政権発足後20ヶ月で初めて不支持が支持を上回った。この1年で「とても良い・良い」の評価は40ポイントも下落した。
イ. 政権の優先課題
- 雇用:34%
- 治安:33%
- 社会保険庁(CCSS)問題:26%
ウ.国会の評価
- 評価する:18%
- 評価しない:69%
エ.支持する政党
- 国民解放党(PLN):42%
- キリスト教社会統一党(PUSC):12%
- 市民行動党(PAC):7%
- 自由運動党(ML):5%
- 排除無き参画党(PASE):1%
オ.PLN内における次期大統領候補支持率
- ジョニー・アラヤ・サンホセ市長:37%
- ホセ・マリア・フィゲーレス元大統領:22%
- ロドリゴ・アリアス元大統領府大臣:13%
- アントニオ・アルバレス・デサンティ:10%
カ.政治家個人としての評価
- ジョニー・アラヤ・サンホセ市長:62%
- チンチージャ大統領:56%
- エプシー・キャンベル(PAC):51%
- アントニオ・アルバレス・デサンティ(PLN):49%
- フアン・ディエゴ・カストロ(PLN):48%
- ホセ・マリア・フィゲーレス元大統領:47%
- (4) UNIMER社による世論調査結果
UNIMER社が、1月4日~10日に実施した世論調査結果を発表した。
ア.チンチージャ大統領の施政
- 非常に良い・良い:23%(前回9月は26%)
- 悪い・非常に悪い:34%(同29%)
- 普通:43%(同44%)
イ.チンチージャ大統領の後、どちらの性別の大統領候補に投票するか
- 性別は無関係:66%
- 男性:22%
- 女性:10%
ウ.閣僚の業務の評価
- 良い・非常に良い:11%(7月は27%)
- 悪い・非常に悪い:46%(同17%)
- 普通:42%
エ.国民解放党(PLN)内で次期大統領候補を選ぶなら
- ジョニー・アラヤ・サンホセ市長:29%
- ホセ・マリア・フィゲーレス元大統領:16%
- アントニオ・アルバレス・デサンティ:14%
- ロドリゴ・アリアス元大統領府大臣:9%
オ.政治家個人への支持
- 1位 ジョニー・アラヤ・サンホセ市長(PLN):57%
- 2位 エプシー・キャンベル元国会議員(PAC):55%
- 3位 チンチージャ大統領(PLN):55%
- 4位 フアン・ディエゴ・カストロ(PLN):48%
- 5位 オスカル・アリアス前大統領(PLN):47%
- 最下位 ホセ・マリア・フィゲーレス元大統領(PLN):14%
カ.ホセ・マリア・フィゲーレス元大統領が大統領候補になることに賛成か
- 賛成:9%
- 反対:88%
II.外交
1.対中南米関係
- (1) チンチージャ大統領のグアテマラ大統領就任式出席
1月14日、チンチージャ大統領はペレス・グアテマラ新大統領の就任式に出席し、同新大統領と首脳会談を実施した。両首脳は両国間の治安協力が順調に進んでいることを確認し、SICA、気候変動、自然災害の緩和などについて協議した。
他方でチンチージャ大統領は、イスラ・カレロ地域の国境問題もあり、1月10日に実施されたオルテガ・ニカラグア大統領就任式には出席せず、代わりにサンチョ外務省儀典長が出席した。
- (2) 中米首脳とバイデン米副大統領との会談
3月6日、ホンジュラスで中米首脳とバイデン米副大統領との会談が行われ、チンチージャ大統領も出席した。この会談ではペレス・グアテマラ大統領が提起した麻薬不処罰もが取り上げられ、バイデン米副大統領がこれに反対の意を表明し、エルサルバドル、ホンジュラス及びパナマも同じ立場をとった。これに対してグアテマラ、コスタリカ及びニカラグアは、この議論を進めるべきとの立場を示した。
- (3) チンチージャ大統領の中米首脳会合出席
3月24日、チンチージャ大統領は、グアテマラで開催された治安対策に関する中米首脳会合に出席した。これに出席したのは主催者のペレス・グアテマラ大統領、マルティネリ・パナマ大統領とチンチージャ大統領のみで、フネス・エルサルバドル大統領、ロボ・ホンジュラス大統領及びオルテガ・ニカラグア大統領は当日に出席をキャンセルした。ドミニカ共和国及びベリーズからも首脳の出席はなかった。
同会合で3首脳は、域内の治安・麻薬対策として三つの提案を打ち出した。一つ目は、麻薬の消費国が中米で押収されるコカイン等の量に応じて、1キロあたり一定の額を支払い、その資金を域内の麻薬対策に使うこと。二つ目は、域内に中米統合機構(SICA)とは独立した暫定の刑事裁判所を創設し、麻薬、殺人、誘拐、武器輸出及び資金洗浄等の関連事案を取り扱うこと。
- (4)バルデッティ・グアテマラ副大統領の当国
2月29日、バルデッティ・グアテマラ副大統領がコスタリカを訪問し、チンチージャ大統領と会談した。右会談では、組織犯罪や麻薬対策など治安問題を中心に協議し、特に麻薬不処罰について広く議論していく立場を両国が確認した。
- (5) カスティージョ外相のメキシコ訪問
2月15日、カスティージョ外相はメキシコを訪問し、エスピノサ墨外相と会談した。この中で両外相は、軍縮、米州人権システム、CELAC、太平洋同盟、ニカラグアとコスタリカの紛争等につき協議した。
- (6) 太平洋同盟へのオブザーバー参加
3月5日、太平洋同盟首脳(メキシコ、チリ、コロンビア、ペルー)が行ったテレビ会談にチンチージャ大統領も参加し、コスタリカのオブザーバー参加が承認された。
2. 対米関係:ナポリターノ米国土安全保障長官の当国訪問
- 2月28日、チンチージャ大統領はコスタリカを訪問したナポリターノ米国土安全保障長官と会談し、治安問題等について協議した。この会談でナポリターノ長官は、麻薬不処罰反対という米国の立場を繰り返した。
また同長官はサモラ内務公安大臣と共に、両国間の航空機及び船舶の旅客情報を提供し合うための覚書に署名した。
3. 対アジア関係:ブータンとの外交関係樹立
- 3月21日、コスタリカはブータン王国と外交・領事関係を樹立した。両国間の覚書は、ウリバリ駐国連代表部コスタリカ大使及びワングック同ブータン大使との間で署名された。
4. 対欧州関係:カスティージョ外相のスペイン訪問
- 3月1日、カスティージョ外相がスペインを訪問し、ガルシア・マルガージョ外相と会談した。両外相は、中米EU連携協定の発効に向けた手続き促進の重要性を確認し、また治安分野を含む開発協力の重要性を確認した。またカスティージョ外相は、ニカラグアとの国境紛争について詳細に説明した。
5. マルチ外交:国連人権理事会
- 2月27日、カスティージョ外相は、国連人権理事会ハイレベル・フォローアップ会合に出席した。同外相は、同理事会の中に人権問題と環境問題を結びつけ独立した立場で調査を行う専門家を創設することを提案するとともに、シリアの現状について憂慮を表明した。
(4月~6月)
【要旨】
(内政)
(内政)
【本文】
I.内政
1.財政改革
- (1)与党連合の結成
4月23日、排除無き参画党(PASE)が、野党連合を離脱して与党国民解放党(PLN)と連合を結成する旨発表した。PASEはPLNとの間で、5月の国会議長選挙において、国会議長及び副議長をPASEから排出することで合意した。本件を事前に聞かされていなかった他の野党は一様にPASEを裏切り者と批判し、PASE抜きでも野党連合を継続する旨確認した。
- (2)新国会議長の選出
5月1日、チンチージャ政権3年目を迎えるにあたり、国会議長選出投票が行われ、本件選挙前に連合を形成した与党PLN、PASE、コスタリカ刷新党(RC)及び国家復興党(RN)の支持を得たPASEのグラナドス議員が選出された。その他国会幹部職も、以下のとおり上記4党が占めた。
国会議長:グラナドス議員(Victor Emilio GRANADOS)PASE
副議長:モネステル議員(Martin MONESTEL) PASE
第一書記:チャベス議員(Rita CHAVEZ) PASE
第二書記:エスピノサ議員(Xinia ESPINOZA)PLN
第一書記補佐:アベンダニョ議員(Carlos AVENDANO)RN
第二書記補佐:オロスコ議員(Justo OROSCO) RC
与党PLNは、国会議長職等をPASEに譲る代わりに、国会21委員会のうち19委員会の委員長を占めることとなり、ほぼ全ての重要法案審議において主導権を回復することとなった。
また、政権3年目の各党の会派長が以下の通り選出された。
国民解放党(PLN):モリーナ議員(Fabio MOLINA)
市民行動党(PAC):アクーニャ議員(Yolanda ACUNA)
自由運動党(ML):ゴンゴラ議員(Carlos GONGORA)
キリスト教社会統一党(PUSC):フィッシュマン議員(Luis FISHMAN)
排除無き参画党(PASE):ポラス議員(Jose Joaquin PORRAS)
広域戦線(FA):ビジャルタ議員(Jose Maria VILLALTA)
コスタリカ刷新党(RC):オロスコ議員(Justo OROSCO)
国家復興党(RN):アベンダニョ議員(Carlos AVENDANO)
- (3)野党連合の崩壊
5月15日、PUSCは与党PLNと政策合意を結んだ旨発表した。合意内容は、政府が進める財政改善に関する法案、交通法案、カジノ税法案等をPUSCが支援する代わりに、PUSCが推進する各種法案や公務員の汚職追及委員会設置に協力すること、更に両党の協議機関としてワーキング・チームを設置すること等である。
昨年の野党連合結成時の合意によれば、2013年の野党連合内での国会議長候補はPUSCから出すことになっていたが、フィッシュマン議員はPUSCとして2013年のいかなる国会役員職も希望しないとして、野党連合から距離を置く姿勢を示した。同議員は、これはPUSCの野党連合からの離脱を意味するものではないと述べたが、PUSC内で唯一フィッシュマン議員だけが、この1年の野党連合の成果は乏しかったとして離脱を訴えた旨明かしている。
5月21日、PACの5議員が野党連合からの離脱を宣言した。これにより野党連合はわずか16議員となり、連合を形成する意義を失ったことから事実上の終焉を迎えた。離脱した議員はその理由について、野党連合は権力の分配以上の役割を果たせなかったこと、PUSCとPLNが政策合意を結んだこと、ゲバラML党首が野党連合とは無関係に次期大統領選出馬を発表したこと等を挙げた。アクーニャPAC会派長は、5議員が党として合意がないのに離脱したことに不快感を示しており、PAC内の対立が浮き彫りになった。
2.チンチージャ大統領の動向
- (1)年次教書演説
5月1日、チンチージャ大統領は国会において、全国会議員、両副大統領及び全閣僚、最高裁長官、選挙最高裁長官並びに外交団等を招き、政権3年目を迎えるにあたっての年次教書演説を行い、政権2年の成果と今後の課題を述べた。要点は以下の通り。
2011年は4%以上の安定した経済成長となり、輸出及び投資が増大した。今後も各国とのFTA締結を推進していく。
-幼児・高齢者ケアを順調に拡大。教育支出を対GDP比7%まで引き上げた。
-警察官の数を史上最大の14,000人まで増大し、犯罪率増加に歯止めをかけた。麻薬・組織犯罪対策を政権後半で強化していく。
-再生可能エネルギーを中心とした電力生産拡大を推進。海洋保護も促進。
-過去の政権の負の遺産である財政問題の責任を現政権が負っている。「税のための連帯法案」が却下された今、全政党が協議して新たな対策を検討すべき。
-国民の期待に応える民主主義制度を検討するため、賢人会議を立ち上げる。
-政権2年間でいくつかミスを犯したことを認める。今後も国民の福祉のためにリーダーシップをとっていきたい。
- (2) 賢人委員会の設立
6月12日、チンチージャ大統領は5月1日の年次教書演説で言及した、大統領の諮問機関としての「賢人委員会」の委員6人を以下の通り任命した。
ロドルフォ・ピサ・ロカフォル:弁護士、最高裁第四法廷(憲法法廷)予備判事、元社会保険庁(CCSS)総裁
ファビアン・ボリオ:弁護士、元法務大臣
ブラディミル・デ・ラ・クルス:元国会議員、元駐ベネズエラ大使
マンリケ・ヒメネス:憲法学者
フランシスコ・アントニオ・パチェコ:Banco Popular頭取、元教育大臣、元国会議員
コンスタンティーノ・ウルクジョ:政治学者、元キリスト教社会統一党(PUSC)国会議員
同委員会は政府のガバナビリティ改善のための提言をまとめる予定で、11月の提出を見込んでいる。提言の中には、行政府と国会の関係、国会の権限(閣僚の問責権限の付与、審議のための最低出席人数低減等)、国民投票による大統領や国会議員の罷免の可能性、中央政府とその他行政機関との関係、最高裁第四法廷(憲法法廷)の権限見直し、国家と市民社会の関係等が含まれる予定で、憲法改正を伴うものもある。
- (3)政権支持率
4月9日~17日まで、UNIMER社が世論調査を実施したところ、チンチージャ大統領の施政につき「非常に良い・良い」は17%、「悪い・非常に悪い」が44%となり、支持率が更に下がった。
3.閣僚の交代
- (1)財務大臣
エレロ財務大臣が、不動産税の過少申告、土地の公安警察への賃貸、妻の会社の所得税過少申告等次々と疑惑が浮上したことを受け、4月2日、チンチージャ政権を守るためとして辞任した。
4月17日、チンチージャ大統領は、後任の財務大臣にエドガル・アジャレス氏を任命した。アジャレス氏は62歳の経済学者で、中央銀行や証券取引所代表等を務めた他、米州開発銀行(IDB)、世界銀行、IMF統計次長、各国でのマクロ経済プロジェクト顧問(伯、スリナム、アンゴラ)など国際経験も豊か。
- (2)公共事業運輸大臣
5月4日、チンチージャ大統領は、ヒメネス公共事業運輸大臣を更迭した。ニカラグアとの国境を成すサンフアン河流域で進めている道路建設に関し、同省傘下の全国道路評議会(CONAVI)の職員2名が、関連する建設会社から賄賂を受け取ったことが発覚したことが理由。これでチンチージャ政権発足後13人目の閣僚交代で、内閣を去る閣僚としては9人目となるが、これまではすべて自発的な辞任という形をとっており、更迭したのは本件が初めてである。本件事業は、ニカラグアとの間のイスラ・カレロ地域国境紛争とも関連し、主権に係る問題なので、大統領としても断固とした対応を取らざるを得なかったと見られる。後任には、同省のルイス・ジャシュ次官が任命された。
- (3)法務平和大臣
5月9日、パリス法務平和大臣がFACEBOOKを通して、15日付けで辞任する旨発表した。同大臣はアリアス前政権時代の09年8月から法務大臣を務めており、今般、チンチージャ大統領から受けた使命を全うしたことを辞任の理由に挙げ、功績として、刑務所環境の改善(IDBからの借款による新規刑務所建設等)、各種手続きの簡素化、ハーグ条約への加盟等を挙げた。後任には、同省のフェルナンド・フェラロ氏が任命された。
4.財政改革法案の無効判断
- 財政改革に関する「税のための連帯法案」の審議プロセスについて、第四法廷は4月10日、全会一致で重大な違法性があったとの判断を下した。これは、法案の第一採択終了後に、野党議員が提出していた法案審議プロセスの「合憲性」審査に対して下した判断である。違法性は2点あり、①同法案は国会本会議で決められた「迅速審議」に基づいて審議が進められ、これによって審議日程も定められていたにも拘わらず、特別委員会委員長であったアラヤ議員(与党国民解放党:PLN)が、本会議の許可を取らずに審議日程を2日間延長したこと。②同法案は、提出時から本会議採択までに53の修正が施され、法案の本質的な変更があったにも拘わらず、第一次採択前に再度法案の公表がされなかったこと。この判断により、昨年11月17日の特別委員会における採択、及び3月14日の本会議第一次採択はいずれも無効となった。
5.次期大統領選に向けた動き
- (1)アラヤ・サンホセ市長の党内予備選立候補表明
世論調査で引き続きジョニー・アラヤ・サンホセ市長が与党国民解放党(PLN)内での次期大統領候補として最も支持されているとの結果を受け、ラ・プレンサ・リブレ紙がアラヤ市長に取材したところ、同市長は、自らの支持者を安心させるためとして、「選挙プロセスが開始されれば、立候補する。」と述べ、初めて公の場で次期大統領選への意欲を表明した。他方で、チンチージャ政権3年目が始まったばかりであり、今はチンチージャ政権を支えるのが筋とし、早期に選挙キャンペーンを開始することへの批判を述べた。
- (2)ゲバラML党首の次期大統領選立候補表明
5月12日、野党第2党自由運動党(ML)のオットー・ゲバラ党首が、テレビ番組の中で次期大統領選への立候補を表明した。
6.新会計検査院長
- 5月7日にアギラール前院長が任期を終えて以降、与野党間で合意が形成されずに会計検査院長は空席となっていたが、5月21日、ようやくマルタ・アコスタ前副院長が新任長に選出された。
II.外交
1.マルチ関係
- (1)チンチージャ大統領の国連主催「幸福に関するハイレベル会合」出席
チンチージャ大統領は、4月2日から3日にかけてニューヨークの国連本部を訪問した。
- (ア)2日、チンチージャ大統領は、ブータン政府の提唱によって開催された「幸福に関するハイレベル会合」に出席し、演説した。同会議には、藩基文国連事務総長、ナシル・アブドルアジス・アルナセル国連総会議長、ティンレイ・ブータン首相、コテレッツ国連経済社会理事会議長、クラーク国連開発計画総裁を始め、約500名の開発分野の専門家や政府代表が出席した(注:日本からは中野外務大臣政務官が出席)。
- (イ)3日、チンチージャ大統領は、藩基文国連事務総長と会談し、中米地域における麻薬取引に係る暴力行為や組織犯罪に対抗していくために国連のより強力な支援を要請した。また、同日バチェレUNWomen事務局長と会談し、女性の政界進出に向けコスタリカが採用した議席数割り当て方式や、農村地域及び先住民族の女性の地位向上について議論し、バチェレ事務局長が本年下半期にも当国を訪問する可能性について検討した。
- (2)第2回持続性と幸福に関するフォーラム
5月8日及び9日に当国で第2回持続性と幸福に関するフォーラムが開催され、クリントン米元大統領他が出席し、クリーンエネルギー、環境、人間開発などについて議論した。
- (ア)8日、フィゲーレス元大統領は、第2回持続性と幸福に関するフォーラムに出席し、地球はもはや従来のような持続性はなく、更に、現在、地球の10億人以上は過剰消費をしているので、二酸化炭素削減に早急に取り組む必要がある旨述べた。
- (イ)9日、クリントン米元大統領は、同フォーラムの閉会式で、コスタリカは、ハイテク産業国であると同時にクリーエネルギーに取り組んでいる環境先進国である旨述べた。また、同元大統領は、コスタリカは、クリーンエネルギー開発のための民間投資が必要で、将来は電気自動車の工場をコスタリカ内に設置するべきである旨述べた。更に、同米元大統領は、先住民が長年培った持続的な森林利用や生物多様性保護注目すべきである旨述べ、聴衆の注目を浴びた。
- (ウ)9日夕刻、チンチージャ大統領とクリントン米元大統領は、再生エネルギーの分野への投資及び麻薬組織に対する取り組みについて大統領府で会談した。
2.欧州関係:チンチージャ大統領の欧州訪問
- チンチージャ大統領は、5月20日から31日にかけて投資及び協力関係強化のために欧州諸国(フランス、ドイツ、イタリア、バチカン及びスイス)を訪問した。
- (1)フランス
- (ア)5月22日、チンチージャ大統領は、投資を誘致すべく仏企業家運動との朝食会に出席した。その後、同大統領はOECDの年次フォーラムに出席し、コスタリカの生活水準指数の高さなどについて演説した。また、同大統領は、フランスのベル上院議長と会談し、中米EU連携協定、二国間の政治、通商、協力関係(交通網及びクリーン・エネルギー)を強化するべく協議した。
- (イ)5月25日、チンチージャ大統領はドイツからパリに戻り、第4回ラ米カリブ国際経済会合、OECD加盟国メンバーの各国大使との会合及びIDB総裁との会合に出席した。また、同大統領は、ユネスコのイリナ・ボコバ事務局長と会談し、コスタリカのディキス石球公園のユネスコ世界遺産登録などについて協議した他、ボコバ事務局長は、6月20日から22日にブラジルで開催されるリオ会合でのコスタリカの支持を要請した。
- (ウ)5月26日、チンチージャ大統領は、パリのケイ・ブランリー博物館を訪問した。同博物館には、コスタリカのディキスの石球も展示してあり、同博物館とコスタリカの博物館との協力案件もある。
- (2)ドイツ
- (ア)5月23日、チンチージャ大統領は、メルケル首相と会談し、ドイツでの留学生受け入れ、特に科学技術の分野の修士及び博士課程を3倍増するよう、また、再生エネルギーの分野の協力を要請した。また、同大統領は、ゴーク大統領と会談し、両首脳は環境保護を推進することで一致した。更に、オット・ドイツ経済事務局長は、コスタリカが将来OECDに加盟すべくサポートする旨述べた。
- (イ)5月24日、チンチージャ大統領は、シュトゥットガルトゥで80のドイツ企業と会合を持ち、コスタリカは、政治的安定、経済的安定、地政学的利点、生活水準の高さ、ビジネス環境が良好など、ラ米の中でも投資環境が最も整っている国の一つであるとして、ドイツからの投資誘致を奨励した。
- (3)バチカン
- 5月28日、チンチージャ大統領は、ローマ法王に謁見した。法王はコスタリカの平和、民主主義、発展、環境などの分野での国際社会における貢献をたたえ、全てのコスタリカ国民に神の加護があるよう祈願した。更に、法王は、人工授精に反対の立場を表明した。同大統領は、法王庁の国務長官ベルトーネ枢機卿、外務長官マンベルティ大司教とも二国間関係について協議した。
- (4)イタリア
- 5月29日、チンチージャ大統領はFAO会合の開会式で演説をし、コスタリカの協同組合は高い生産性を上げており、国の発展に寄与している旨述べた。その後、ホセ・グラチアノ・ダ・シルバFAO総裁と会談し、同総裁は向こう2年間で、中小零細農業生産者のために160万ドルの無償供与をコスタリカに実施する旨約束した。また、チンチージャ大統領は、エネル・グリーン・パワー社(イタリアの再生エネルギー会社)のコロンボ社長と会談し、コスタリカへの新たなプロジェクトへの参入の可能性について協議した。
- (5)スイス
- 5月30日、チンチージャ大統領は、ジュネーブで万国通信連合のハマドゥーン・トゥール総裁と会談し、インターネットでの児童の安全を擁護すべきである旨要請した。また、同大統領は、ILOの国際会議の開会式に出席し、教育関係者の尽力が国の発展に寄与している旨スピーチした。更に、同大統領は、ILO総裁と会合し、7年前からILOの反労働組合国(世界184カ国中25カ国)として登録されているコスタリカについて、同リストから除外する可能性について協議した。
3.中国関係:中国の張高麗中国共産党政治局員の来訪
- 6月8日、コスタリカ・中国外交関係樹立5周年を記念して、張高麗中国共産党中央政治局員(天津市共産党書記)が、コスタリカを訪問し、チンチージャ大統領他と会談した。
- (1)チンチージャ大統領は、張高麗中国共産党中央政治局員と会談し、中国からコスタリカへの新たな投資などについて協議した。
- (2)同大統領は、今年下半期、もしくは来年初めに訪中する予定で、中国はアジアとの関係強化上、非常に重要な役割を担う国である旨述べた。
- (3)リーベルマン第二副大統領と張高麗政治局員は、コスタリカ石油精製公社と中国開発銀行との協力の覚書に署名すると共に、天津市とプンタレナスとの姉妹都市の友好協力関係を強化する旨の議定書に署名した。
- (4)張高麗政治局員は、国会を訪問し、グラナドス国会議長、各党会派長、外交・通商委員長と会談し、中国の石油精製所、公共輸送機関などについて協議した。
- (5)8日夜、アリアス前大統領は、同私邸に張高麗政治局員を招待し、ヒメネスPLN党首、フルニエルPLN国会議員他と夕食を共にした。
4.コロンビア関係:サントス・コロンビア大統領の当国訪問
- 6月15日、コロンビアのサントス大統領がコスタリカを訪問し、チンチージャ大統領他と会談し、下記の通り両国のFTA締結などに関する共同宣言に署名した。
- (1)政治関係:両国は、二国間委員会の活動を活性化させ、国際機関の近代化、透明性化を通じてラ米の民主主義を強固なものとする。CELACについて、2013年の第1回首脳会合、2014年からのコスタリカのトロイカ参加に向けて作業を強化していく。
- (2)環境関係:両国並びにエクアドル及びパナマの環境大臣、国防大臣、治安大臣、漁業当局者の会合を実施し、熱帯東太平洋の海洋資源のモニタリング、規制、調査に関する戦略を定める。また、両国は、排他的経済水域における不法漁業、麻薬不法取引きを取り締まるための共同監視を継続する。
- (3)治安関係:2003年に合意された治安と司法に関するハイレベル・ワーキングワーキンググループを再活性化する。海及び空を通じた覚醒剤の不法取引を取り締まるための協力に係る二国間合意に向け交渉を開始する。また、麻薬、マネーロンダリング、テロ組織への資金援助などに対して共同行動を実施する。更に、対策に係る協力合意のための交渉、犯罪人引渡し条約に関する交渉を本年後半に完了させる。
- (4)SICA関係:コロンビアが、SICAの常任オブザーバーの地位を得られるよう、また、中米治安戦略会議のセッションにオブザーバーとして参加できるようコスタリカがサポートする。
- (5)通商関係:両国はFTA締結を目指すほか、将来OECD加盟を目指して共同で取り組と同時に、太平洋同盟の目的が達成されるよう、就中、コスタリカの太平洋同盟の正式メンバー化の為に共働していく。
- この他、コロンビアのサントス大統領は、チンチージャ大統領に対し、コロンビア人のコスタリカ入国に関する査証免除を提案した。現在、コロンビア人の移民者数は約16.500人で、米国に次いで第二位(ニカラグアは除く。)である。
5.イスラエル関係:ピバ第一副大統領のイスラエル訪問
- ピバ第一副大統領は、二国間外交関係の強化と各分野における協力推進を目的に6月25日から29日にかけてイスラエルを訪問し、同国の大統領、外相、国防大臣、副首相兼地域開発大臣、エルサレム市長他と会談した。
- (1)6月25日、同第一副大統領は、同国のシャビット外務省ラ米・カリブ局次長と治安協力について協議し、サモラ内務公安大臣は、空港及び国境の警備並びに市民の安全に係るシステムを視察した。
- (2)6月26日、同第一副大統領は、同国のリーベルマン外相と会談し、同外相はコスタリカに対する治安協力を約束し、また、コスタリカの国連人権理事会選挙及びOECD加盟を支持すると表明した。他方、サモラ内務公安大臣は、アハラノビッチ国防大臣と会談し、イスラエルが、当国に対して一般治安向上のために情報、技術の交流を通じて支援していくことで一致した。
- (3)6月27日、同第一副大統領は、イスラエルのペレス大統領と会談し、両者は、0歳から5歳までの幼児教育向上のため、両国の経験について意見交換した。更に、同第一副大統領は、ペレス大統領に対し、教育、最新テクノロジー及び治安の分野に対する同国の協力を要請し、イスラエルは、研修及び警官養成の最先端技術で協力していく用意があるとペレス大統領は述べた。
- (4)6月29日、同第一副大統領は、シャローム副首相兼地域開発大臣と会談し、国境地域の開発のための協力を要請すると共に、ニルバルカット・エルサレム市長と地方自治体強化及び地方分権について意見交換した。